伝播が目ざめるとき(午後4)
声の主、丹野はズボンのポケットに手を突っ込んで、得意げに俺達を見下ろしていた。
正直こいつが何をしたいのかわからない。俺の境遇を暇つぶしでいじって遊んでいるだけかと思いきや、ネットでの不穏な流れを教えてくれたりもするし。孤高の男というキャラで売っているんだと思っていたけど・・・もしかして、寂しんぼ、なのか?
「…妙に絡んでくるな、お前」「…妙に絡んでくるな、お前」
「そーだよなー、仲間に入りたいのか?」
「け、誰がバケモンコンビに加わるか」
じゃ、あっちいけよ。ツンデレとは言わさねえぞ、この野郎。
ま、どのみち他言厳禁、部外者に聞かせる話はない。柿崎も奴がむこうに行くまで黙っていることにした様だ。俺達も柿崎も何も言わずに、ガヤガヤ賑やかな教室の雑音を聞いていた。もう授業は終わったから、もうすぐ帰れるな。
誰も話の続きをしようとしないので焦れたのだろう、机をたたいて語気を強める
「じゃなくてさぁ、学校でPC使えるとこ探してんだろ。そこ俺知ってるって言ってんの」
「よかったな。今忙しいんだ」「よかったな。今忙しいんだ」
「日ごろの行いだなー」
「話が進まねーだろが!教えてくださいって頼めや、コラ」
・・・ガキか、お前は。
どうするコイツ?柿崎に視線を送ると、半ばあきらめの様な目で肩をすくめられた。しゃーない聞いてやるか。
「で、どこよ」「で、どこよ」
丹野は例の人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、勿体ぶりながら言った。
「コン部の部室」
「コン部?仙神高校七不思議のひとつの?」「コン部?仙神高校七不思議のひとつの?」
「部員を見ると海鮮世界に連れ去られるっていう、あの?すっげー」
とたんに柿崎の目が輝きだした。
コン部というのは、開校当時からあるといわれている伝説の部活だ。その名前のみょうきちりんさから、たまにネタになっていたりする。
・・・が、コン部とかかれた古臭い開かずの部屋が一つあるだけで、活動内容や部員など全く不明のため、『部活は存在しない。歴代の先輩方のジョーク(死語)である』というのが目下のところ定説ではあった。ほら、サンタみたいなもんで。
が、そんな反応は不満だったのだろう、凶悪な顔で柿崎を睨む。
「んなわけねーだろ!
そもそもコン部っつーのはギターコードの『C on B』からとったギター部の愛称だ」
知らなかった…。そんなまともな部活だったのか。…ギター?
「ん?ギター部?そんなんあったっけ?」
「ねーよ?10年前に潰れた」
「・・・へ?」
「結局何なんだよ!」「結局何なんだよ!」
「名前は残して好き勝手やってんのさ。『部活』の登録自体は毎年更新してっから、僅かながら維持費もでる。それを地道に積み立てて最近PC導入したんだ。フフン」
何を自慢しているのか、丹野は得意げに鼻を鳴らす。
それにしても大会などに参加しない部活へのお金はほとんど出ないに等しい。それを積み立てたというのだから、真面目なのか不真面目なのか訳わからん……はぁ、なんか緊迫感がなくなったわ。
「当 然 ネットもできるぜ」
そりゃあな。できないでここまで語られても困るんだよ。
「使えるんなら使いたいな、ソレ。ネットも使えるならさ、行くしかないよな?なーなー、部室に連れて行ってくれね?」
柿崎は気のないそぶりをしながらも目をらんらんと輝かせ、最後の方で声がうわずった。
謎の部室の中に入りたいだけだな。親友の思考パターンが読めてしまうのが悲しい。普通に学校生活を過ごしているのでは立ち入る機会もない所だから仕方がないか。
俺にしたって左にしたって他に案があるわけでもないし。
「……まー頼む」「……まー頼む」
一応、俺も言葉だけでお願いした。頭なんか死んでも下げるか。
それでも丹野にとって満足いく成果なのだろう、たちまち調子を取り戻し、普段の悪ぶった表情に戻る。
「ふん、最初からそういやぁいいんだよ、バケモン。ついてこいよ」
「今からか。帰りの会どーすんだ」「今からか。帰りの会どーすんだ」
「バーカ、小学生か。んなもんボサるに決まってんだろ」
・・・ボサる・・・
くそ、マジこいつ殴りてぇ!!
色々突っ込みたいのをこらえて、俺は柿崎と共に丹野の後を追った。




