伝播が目ざめるとき(午後1)
「グッドアフタヌーン、エブリワン?」
「グッドアフタヌーン、ミスター平田」
「ハワイユ」
「ファィン、サンキュー。アンジュー?」
「ファイン、センキュー」
中学でもないのに、授業の最初にこの御決まりフレーズが繰り返される。「今から英語の時間、という切り替えの為だ」と教科担当の平田先生は言うのだけど実際どうなのだろう。
しっかし、いつ聞いても、「How are you」が「ハワイユ」に聞こえるなぁ。ハワイの湯かよ…さすがだぜ、ミスター平田。
俺はミスター平田の文法説明を右から左に聞き流し、数ページ後ろにのっているスヌーピーの漫画を眺めていた。・・・昼飯食った後の文法はちと眠い。あ、そーだ、写し絵してみよう。 ヒマだし。俺と左はレポート用紙を破って教科書に乗せた。
「おい」
丹野が何やら後ろで言っている。うるさい奴だ。
英語は2クラスに分かれて授業を行っている。俺は英語キライ、丹野はでき悪い。ダメなBクラスは出席番号順に座るから、俺のすぐ後ろが丹野になるわけだ。丹野が『ワ行』とか『ラ行』の苗字だったらよかったのにな。
教科書の絵を写すのは意外と骨が折れる。どんなに抑えていても、紙がずれるし。
「無視すんなや、コラ」
ようやく小さいキャラを描き終えたので、左の作品と見比べてみた…さすがに微妙に違う。腕は同じでも、机やノートの質感は変わってくるし、もっといえばシャープペンの芯の具合の影響も・・・
「おいっ」
ドカ、ドカドカ
丹野が神経質に椅子を蹴りだしたので、俺はしぶしぶ振り返った。
「んだよ、うっさいな。努力して無視してんだから空気読めよ…つーか、何で俺だけ」
「そっちの椅子には足届かねーの」
左はちらりと俺を一瞥したが、そのまま無言で写し絵作業を再開した。ちぇ。最近、俺嫌な役回りばっかじゃね?
「・・・で?何のご用ですか?授業中ですよ」
丹野は黙って右側を向いた。そちらに視線を向けると、慌てて前を向く3~4人の生徒がいる。別のクラスの奴か。俺らのクラスと違って馴染んでないからなぁ、この分身状態が気になるのも無理はない。
「昨日、散々お前らにいじられたからな。お か げ さまで、もう慣れた」
「そうじゃねーよ。コレだコレ」
そういって丹野がこっそりYシャツポケットから出したのは・・・
ちょっとまて、またスマホかよ!




