伝播が目ざめるとき(学校:昼)
同級生は相変わらず俺たちに距離があるものの、特にこれといって起らなかった為か、嫌悪や不信のまなざしが消えた。柿崎に言わせれば「当事者達があまりに平然と過ごしているから、本当に異常なのか自信がなくなったんじゃないか」とのことだ。
ま、それはいいさ。でもさ・・・
「ちょっとー、こっち向きなさいよー」
「手降ろせや、邪魔だってー」
「なんなんだ一体。見世物じゃねーぞ」「なんなんだ一体。見世物じゃねーぞ」
昼休み、トイレから戻ってきた途端にスマホを額にかざした女達に取り囲まれた。
写真を撮りたいんだろうが、どういう思考の流れでそうなったのか訳が分からないし、妙に鬼気迫る雰囲気だしで、記者団にフラッシュ浴びせられる犯罪者よろしく、手で顔をガードするのが精いっぱいだ。
と、急に背筋をなぞられ俺たちは悲鳴を上げた。その隙をつかれ顔の前にやっていた手をそいつに捻りあげられてしまった…いてえ!!
「ほれ、捕獲したぞ」
「ぐげげ、この丹野!」「ぐげげ、この丹野!」
「お、いいじゃん。そのままおさえてて~、ほい、チーズ」
ペロポリ~ン
「だから勝手に撮んなってば」「だから勝手に撮んなってば」
俺たちは腕を振り回して丹野を振り払った。ついでに殴りたい所だがぐっとこらえる。(案外、力が強いのがわかったから。くー、なさけねー)
「チーズっていったじゃん。このくらいで怒ってんの?小さっ、マジウケる~」
「あ、でもさ~やっぱ写真より動画の方がいいよね~」
くそ、なんだよ、おもちゃじゃねーぞ、好き勝手されてたまるか!
俺たちは丹野と魔ギャルを押しのけ何とか包囲網から抜け出した。黙ってニヤニヤ見ていた柿崎が俺たちと入れ違うように馬鹿どもの前へ進み出、両手を広げて通せんぼする。
「はいはいはい、太一にご用がある方は、このエージェント柿崎を通して下さ~い?」
「何さ、エージェントって!そこどいてよ!」
「マドモアゼ~ル、これはビージネースで~す。規定に従って下さ~い」
「話し方ムカつく!」「うぜぇ!」
よく、アイツらに太刀打ちできるよな、まったく。柿崎に感謝だ。
「おつかれ」
当り前のように優等生君が椅子を引いて出迎えてくれた。なんとなく居心地の悪さを感じつつ、席に座る。
「どうも。なんなんだ、本当に」「どうも。なんなんだ、本当に」
「重岡君たちは、ツイッターとかLINEやってたりする?」
今ケータイないし(どっちの所有物かでケンカになるから)と返事をしようと思って、はたと思い当った。頭の固そうなコイツが何の脈絡もなく話題を変えるわけがない。ということは・・・。
「そういうこと」
田中がさっとスマートホンの画面を操作する。
あ、最新のモデルだ・・・いいなぁ。俺もほしいんだけど、しばらくそれどころじゃないしなぁ。羨望垂流しで本体を眺めていた俺は、突然画面に映った内容を見せられて、開けた口を閉じるのも忘れてしまった。左も同じようなマヌケ顔をして画面を見ている。
そこには、柿崎と駄弁っている俺らが映っていた。無理やり拡大したのか少しピントがぼやけている・・・投稿日は今日の10時。
やっぱりか!!
それでスポンジ共も真似して注目されようと思って、押しかけたわけか。
「でもま、画像加工だと思われてるっぽいけれど」
「誰だこのratubaizahって。ストーカーかよ」「誰だこのratubaizahって。ストーカーかよ」
「さあ。でも格好のネタだしね。他の人からも隠し撮りされるのは覚悟した方がいいな」
やー、もうされてるよ…教室の隅でと電子音が鳴ったのが聞こえ、諦め混じりに肩をすくめる。
柿崎がギャルたちとの戦闘から戻ってきた。どうやら追っ払うことに成功したようだ。
「いよう、有名人。そのうちグッズとか売られるんじゃね?」
「俺のサイン入りTシャツ買うか?お前。一万で売ってやるよ」「俺のサイン入りTシャツ買うか?お前。一万で売ってやるよ」
「はは、バーカ。ケタ2つ多いだろ」
優等生君がショックを受けた表情で柿崎を見た。
「100円だったら買うのか?!」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・」「いや、そういう意味じゃなくて・・・」
しかし
今は『学校内の変なこと』ですんでるし、丹野達のおちょくり以外嫌な目には合っていない。友達や先生や家族が普通に接してくれる。これは奇跡に近いだろう。運が悪ければ、カフカのあの小説のような状態にされてもおかしくないのだ。うわ、背筋寒くなってきた。
早めに何とかした方がいい。元に戻る方法か、最悪、原因だけでも探さないと。
「なーに2人して難しい顔してんだよ。Tシャツがダメならズボンにすればいいじゃない」
「それならスマートホンカバーの方が売れ行きいいと思う」
「あー、なるほどな。でも調達が難しくないか?」
「くだらん打ち合わせすんな!」「くだらん打ち合わせすんな!」
そういや、なんで優等生君が当たり前の様に俺たちと一緒にいるんだよ?・・・別にいいけどさ。




