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第8話:楽しかった温泉旅行

 ガツンと言ったらいつものようにビンタをされたクロウです。訴えれば勝てます。

 さて、露天風呂で充実な時間を過ごした……のはモモグリさんとフリージアだけで、ボクはすっかり萎えてます。とにかくお風呂上がりのボク達を待っていたのは豪華な夕食でした。

 船盛りやカニ、山菜などが綺麗に盛り付けられていて食欲をそそります。

 しかしモモグリさんはわがままを言います。

「風呂上がりといったらコーヒー牛乳だろうが! コーヒー牛乳を出せ! 瓶で!」

 無茶苦茶を言います。頼むから大人しくしてほしいです。

 でも仲居さんは愛想良くコーヒー牛乳を持ってきてくれました。良い人です。いや、仕事だから当たり前か。ご苦労様です。

 モモグリさんは腰に手を当てコーヒー牛乳を一気飲み。オヤジか。

 そしてやっと豪華な食事に手をつけました。幸せそうな表情で次々とたいらげていきます。

 ボクも食べるか。

 もぐもぐ……。

 う……美味い! こりゃあ美味いぞ! こんなの食べたことないよ!

「クロウ君、あ〜んして」

 モモグリさんが甘い声でカニを差し出してきた。

 これを食べさせるとでも? そんな恥ずかしいことできないよ。

「あ〜ん、して?」

「…………」

 やなこった。色気たっぷりに見つめても無駄だよ。絶対に何か企んでいるでしょ。

「口開けてよ〜」

 断固として拒否させていただきま――

「ぎにゃあぁぁっ!」

 痺れを切らしたモモグリさんは熱々の汁物をボクの顔にかけた。熱い、火傷しちゃう! なのにモモグリさんとフリージアは爆笑している。ボクはリアクション芸人じゃないんだよ!

 ボクは箸を振りかざして火の玉を飛ばした。しかしモモグリさんは近くにあったお皿で器用にガードした。

「甘いね。キャラメルポップコーン並みに甘いよ……」

 どんだけだよ。


 夜も更けてみんな眠たくなりました。あくびをしながら布団の上に転がります。

 モモグリさんとフリージアは一緒に寝るそうです。フリージアが潰れそうで心配です。

 ボクはモモグリさんから二メートル離れた所で寝ることにしました。近くにいたら何されるかわかったもんじゃありません。

 ふわぁ〜あ……。

 今日はいろいろあって疲れたよ。おやすみなさい……。


 …………。


 …………。


 …………。


 もそっ。


 …………。


 ――ッ!


「モモグリさん! 人の布団で何してんの!」

「ん? 寝相が悪くってねぇ、あっはっは」

 二メートル離れてんのに寝相で寄れるかっつうの。明らかに故意でしょ。人の布団の中に入るのはやめていただきたい。

 邪魔が入ったけど、早く寝よう……。


 …………。


 …………。


「むか〜しむかし、ある所に……」

 えっ、いきなり昔話? やめてよモモグリさん。

「桃太郎がいました」

 お爺さんとお婆さんは?

「ある日桃太郎が川で洗濯をしていると、大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてくるではありませんか」

 順序がおかしい。

「桃太郎は桃を拾いました。しかしそれは桃ではなく、お爺さんのケツだったのです」

 水死体……!

「お爺さんのケツは張りがよく、ツヤもよくて弾力性もありました。桃と見間違える筈です」

 アホだ。

「桃太郎は決意しました。お爺さんを殺した犯人を絶対に捜すと……」

 ミステリーとかサスペンスかい?

「……飽きた」

 ええーっ! 最後までやろうよ!

「しりとりをしよう」

 急に言うね。

「私からね。『りんご』」

「……『ごま』」

「『マグロ』」

「『ロバ』」

「『馬鹿クロウ』」

 悪口かよ。

「『海』」

「『みっともないクロウ』」

 …………。シカト。

「『うなぎ』」

「『ぎりぎりアウトなクロウ』」

 え、なにが?

「『占い』」

「『いい加減魔法の修行をやってほしいクロウ』」

 やってます! モモグリさんが仕事に行ってる間にやってます!

「『美しい』」

「『それは桃栗秋子』」

 しりとりしてねーよ!

 うおっ、睨んでる。怖いから黙っておこう。

「『小悪魔』」

「『私』」

 馬鹿か。

 もう寝よう……。

「おいクロウ君。次は『し』だよ。お〜い?」


 翌朝、何故かモモグリさんは窓の前で仁王立ちをしていました。

「この清々しい朝。私は野に咲く花のように朝日を浴びて今日も生きる……!」

 ごめん、今日は雨ですよ。

 ちなみに一泊二日の予定だったので今日帰ります。

 女将さんに見送られて車で出発しました。

「いやぁ、良い旅館だったわねぇ」

「うん。料理は美味しかったし、お風呂も気持ち良かったし……」

 あとはモモグリさんにいじめられなかったら最高だったのにな……。


 高速道路に入りました。最初は順調に進んでいたけど渋滞に巻き込まれてしまいました。三十分待ちらしいです。フリージアは待ち疲れて眠ってしまいました。

「クロウ君。前の車を一気に吹き飛ばす魔法って――」

「勿論ありません」

 いくら待っても渋滞は解消されません。おまけに外は雨。気が滅入るなぁ……。

 自然と会話もなくなりました。モモグリさんといえどさすがにイライラしているようです。さっきから貧乏揺すりをして落ち着きがないです。

「……早くしないと漏れるじゃない……」

 トイレでした。


 しばらく経ってなんとか渋滞から脱出したモモグリさんはパーキングエリアへ急ぎます。

「モモグリさん。事故だけは起こさないでね。雨でタイヤが滑るから気を付けないと……」

「そんなの百も承知よ! でもトイレにすごく行きたいからぶっ飛ばすのよ!」

 その表情はいつになく真剣です。

 その甲斐があって手遅れになる前に到着しました。

 駐車する際に隣の車とぶつかりましたがそんなのお構いなしにトイレへ直行しました。忙しい人です。

 車内にはボク一人。フリージアはまだ眠ってます。とりあえず暇なので外を眺めてました。すると、車をぶつけられた人がやって来ました。

「おい小僧。ちょっとツラ貸せや」

 悲しいことにヤンキーの人でした。

「どうしてくれんだよ。俺の愛車が傷ついちまったじゃねーか」

 確かに酷い傷。でもモモグリさんの車はもっと酷い。だってあちこち凹んじゃってるもん。

「ムシャクシャするからテメェも車と同じ目にあわせてやる」

 そう言われると車内から引きずり出されたボク。きっとこれから思う存分に殴る蹴るの暴行を加えられるに違いありません。

 でもボクは痛い目にあいたくありません。悪いのはこっちなんだけど返り討ちにしてやりたいと思いま――

「はうぅっ!」

 いきなり先制のボディブローをくらいました。痛いです。

 続けてジャブだのアッパーだのいろいろくらいました。もう我慢なりません。怒りました。

 魔法を使いたいけどゴルフクラブは車内に置きっぱなしです。しかし運良く割り箸が捨ててあったのでそれを代わりに使うことにしました。

 割り箸を軽く一振りするとヤンキーは五メートルほど吹き飛びました。車を吹き飛ばすのはさすがに無理だけど、人を吹き飛ばすぐらいはできます。

 さらに割り箸を一振り。今度は火の玉がヤンキーを襲います。火の玉はヤンキーの頭を通過し、髪型がチリチリヘアーになりました。

「ば……化け物かよ! ひえぇーっ!」

 ヤンキーは情けない声を出しながら車に乗って逃げました。

 ……イテテ。傷口に雨水が当たってじんわり痛い。おまけに服も濡れてしまった。

 ちょうどその時モモグリさんが戻ってきました。

「なんかジャガイモとベーコンを串に刺したジャガベーっていうのが売ってたから買ってきたよ! で、なんでクロウ君は傷だらけで雨に濡れてるわけ?」

 貴女のせいですよ……。


 この後モモグリさんは間違った所から高速道路を下りてしまい、挙げ句の果てには道に迷ったので、家に着いたのは真夜中でした。

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