第52話:実技試験・三択サンタ
【突然だけど、前回までのあらすじ】
実技試験を受けることになったクロウ君。そしてそれに付き合うことになった私、桃栗秋子。
魔物をぶっ飛ばせば得点が貰えるらしいから、必死に魔物達を相手にする私達。
その甲斐あってか、開始四十分の時点で計六十七ポイントを集めることができた。チョロいもんよ。
そして今、私達の目の前にサンタクロースのような姿をした『三択ロース』というくだらない魔物がいるわけなんだけど――
「クロウ君、あのサンタさんもどきのどこが強いのよ?」
「今はまだ大丈夫。だけどあいつの質問に対して怒らせてしまうような回答をすると、すごく暴れるらしいんだ」
「もしかして三択の質問?」
「うん」
ホントくだらないわ。
三択ロースは私達に近付き、早速質問をぶつけてきました。
「レア、ミディアム、ウェルダン。あなたの好きな焼き加減は?」
どうでもいいわ。
まあ、でも、とりあえず答えないとね。
きっと相手も納得のいく焼き加減を選べばいいハズ。
どれを選べばいいかなんてわからない。単純に三分の一の確率に賭けるしかない。
クロウ君が不安な表情で私を見ている。まあ任せなさい、見事切り抜けてみせるから!
レアか、ミディアムか、それともウェルダンかしら……。むむぅ、いざ考えてみるとけっこう悩んじゃうものね。
「残り二十秒」
制限時間ありなのッ? いや、もう、こいつウザイ!
私の『スーパーハイテクノロジー脳内秋子コンピュータ』をフル稼動させ、やっと一つの答えを導き出した。
「ウェルダンッ!」
ババーン! というサウンドエフェクトが鳴りそうな勢いで叫んだ。
クロウ君の額から一筋の汗が流れた。
さあ、どうよ?
辺りは緊張感に包まれ、しんと静かになった。
そして三択ロースは――
「邪道だーッ! ミディアムレアが一番良いに決まってるだろうがあぁぁッ!」
まさかの四択ロースだった。なんてこった。
「モモグリさん、なんてことを!」
「や、無理でしょ」
冷静に言い返す。
三択ロースはどこからともなく鹿の顔を取り出した。アレです、お金持ちの家にありそうな壁に飾る鹿です。
そしてそれを被りました。
鹿人間の誕生です。
絶句。
「クロウ君」
「なんですか?」
「こいつ……馬鹿?」
「あ、あはは……」
普通は鹿じゃなくてトナカイさんでしょうに。
「それはそうと、ここはボクに任せて。モモグリさんはできるだけ離れてて」
「強敵を目の前に黙っていられるものですか。例え傷付いても、例え辛くても、私はこの死地を駆け抜ける……!」
「なに、その気取ったセリフは?」
「シャラップ」
ごちゃごちゃとうるさいので、秘技『ジャスティス・ハンド(ただの平手打ち)』で黙らせました。
「さあ、いくわよ!」
「ううっ……」
あ、クロウ君がちょっと泣いてる。でも気にしない。気にしてあげない。無視。
「ていっ、先手の裏拳ッ!」
「アウチッ!」
クロウ君の鼻にヒット。
「ボクに当てないでよ!」
「ごめん、わざと」
「何故ッ!」
「隙だらけだったから、つい」
鼻血が出てきたので、そっとティッシュを渡す私。ああ、私の主成分は『優しさ』で出来ているんだなあ、と実感した。いや、やっぱり『美しさ』が主成分ね。グラフにすると、八割が『美しさ』で埋めつくされていると言っても過言じゃないわ。
「じゃあ残りの二割は『悪』だね」
「残念、『可愛さ』でした」
「うわ、酷いグラフだね」
延髄チョップをかましてやりました。どうなったかはあえて言いません。
さて、気を取り直していくわよ!
――私はもしもの時のために兵器を用意した。三択ロースが強敵だというのなら、これを使わざるを得ないでしょう。
出でよ、我が兵器!
テレテテッテレー(ファンファーレ)
「卵爆弾ー!」
説明しよう。
卵爆弾は、わたくし桃栗秋子が作った恐ろしい卵型の兵器である。サイズはスーパーなどで売っているMサイズ卵と同じだ。
そしてそれを投げた。卵爆弾は三択ロースに向かって一直線に飛んでいった。
ねちょり。
卵が割れて、中から黄色くてドロドロしたものが出てきた。
一応黄身なんだろうけど、あれは発育途中だったヒヨコです。微妙に血管とかが見えます。グロテスクです。
三択ロースは卵爆弾の威力(ねっとり感や臭い)に悶絶し、ショックを受けた。
よしっ、今が攻撃のチャンス!
まず私が全力で駆け出した。拳を握り、攻撃の準備。
狙いを定めて、クロウ君の魔法――対象者に強い衝撃を与える魔法を使ってもらう。
対象者は私。魔法を受けた私は、衝撃の勢いを走る速さに上乗せさせた。これでさらなる勢いが生まれる。
そしたらあとは――
「いっけぇーモモグリさん!」
殴るだけ!
「必殺『ダブルインパクツ』!」
技名は適当です。でもあえて言うなら、インパクトじゃなくてインパクツって言うのがポイントです。
協力して繰り出した強烈な拳は、三択ロースの頬にめり込んだ。そして勢い良く壁に吹き飛ばされて
「んふうんっ!」と、セクシーかつ苦しそうな声をあげ動かなくなった。
相手が完全に息絶えたのを確認すると、カンム先生の声が聞こえた。
『クロウ、Aランクモンスター撃破。しかしパートナーの戦闘参加により減点。さらにパートナーを傷付けたために減点。三十点獲得』
「はあ? 私は怪我してないわよ」
『頬』
言われた通り頬に手をやる。するとかすり傷があって、わずかに血がにじみ出ていた。
あのサンタ野郎、いつの間に……!
現在九十七ポイント。果たしてどれだけのポイントを集められるかしら?