第50話:実技試験・時の流れは早いもので
その後私達は二頭の魔物を倒した。
一頭はDランク、六ポイント。もう一頭はまたEランク、でも二ポイント。二頭共私が倒したから獲得ポイントは少ないです。
現在の累計ポイントはたったの十ポイント。少ない。
――残り時間……二時間半。
それにしても……寒い。
今の時期十二月の中頃、もうすぐクリスマス。クロウ君と出会ってから一年が経とうとしている。
一年か……。
クロウ君を見てみる。厚いコートを着て、白い息を吐きながら寒そうにしていた。今は夜中だし、今日はいつもより気温が低い日だったもんね。
ちょうど自動販売機の前を通りすがったから、何か飲み物でも買ってあげることにした。
「コーヒーでいい?」
「あ、ホットココアで」
お子様チョイスね。まあ甘くて美味しいけどね、ココア。カカオがたっぷりなココアなら苦いけど。
小銭を入れてスイッチを押す。ガコンッと缶が出てきてそれを取る。
そして、あったか〜い缶ココアをクロウ君の顔面に押し当ててみた。
「熱いっ! 火傷しちゃうじゃないか!」
「秘技・インフェルノナックル」
名前は今考えてみた。
私も自分で飲むものを買った。あったか〜いレモンティー。果汁一パーセント入り。果たして果汁を入れる意味はあるのかしらと問いたい。
「ねえモモグリさん」
不意に話しかけてきた。
「もうすぐ出会ってから一年経つね」
「そうね。去年のクリスマスにクロウ君がやって来たのよね」
「クリスマス、来週だよ」
「そうね」
「…………」
俯くクロウ君はどこか寂しそうだった。
元々ウチに居候する期間は一年間っていうことだったし、クリスマスになったらお別れしなきゃならない。そういうことだ。
でもそんな顔しなくていいじゃない。フリージアちゃんがふらりとやって来るみたいに、またいつか遊びに来てくれるんでしょ? それなら別に寂しくなんかないじゃない。
「まあその気持ち、わからなくもないわよ。なにせこの麗しき美女である桃栗秋子様とバイバイしなきゃいけないなんて、飴玉を舐めようと思って口に含んだら誤って飲み込んでしまいまったく味わうことができなかったほどに寂しいもんね」
「例えがおかしいよ」
「下手したら喉に詰まって死んじゃうけどね」
「テンション下がるよ」
……さて、飲み物も飲んだことですし、魔物探しを再開しましょうか。
「気を取り直していくわよ!」
「モモグリさんは何もしないでよ」
私はゴミ箱に向かって空き缶を野球のトルネード投法っぽいフォームで投げた。空き缶は一直線に飛び、もう少しで入る――というところで何かにぶつかりバイ〜ンと跳ね返った。
何かいらっしゃる。
牛ほどの大きさ、ぼさぼさした黒くて荒い毛並み、そして凶暴そうな犬の顔……それが二つ。
魔物だった。
「クロウ君、この二頭を持つ犬は、もしかして地獄の番犬と呼ばれるケルベロスかしら?」
「いや、この魔物はイチロージローっていう名前だけど」
ダサッ!
「というか、正式な学名は決まっていないんだ。地域によって呼び方が違うみたいで、ある地方ではマイケルジョニーとも呼ばれているらしいし」
もうコイツは私の中ではケルベロスと呼びます。
「イチロージローはボクが倒す。モモグリさんは下がってて」
「やーよ。私も少林寺拳法で戦いたーい」
「あなた少林寺拳法なんて使えないでしょうが」
「ハッ! ハッ! ハッハッ!」
「はいはい、どう見ても動きが適当だね」
「秘技・少林パンチ!」
説明しよう! 少林パンチとは、あたかも少林寺拳法のような動きで相手に己の拳をぶつける技だ! ぶっちゃけ見た目だけの普通なパンチだ!
「ふんがっ! は、鼻に当たった……!」
でも普通に痛いパンチだ。
「まあいいわ。今回だけはクロウ君に任せるから」
「えっ、他人にダメージを与えておいてごめんなさいの一言もないの?」
「蚊がいたのよ」
「こんな冬場に蚊なんかいるもんか。素直に謝ってください」
ふんっ、いちいちうるさいわねえ。はいはいごめんなさいね、私が悪うございました。と、心の中で謝っておく。
さあ頑張れクロウ君。ケルベロスなんか瞬殺しちゃいなさい。ファイト!
うん、続く。