第5話:おいでませ妖精さん
疲れた……。今日の仕事場は死ぬほど忙しかった。いつもハイテンションな私でさえ溶けちゃいそうなくらい忙しかったのです。
「たっだいま〜……」
いやぁそれにしてもお腹すいたな。クロウ君、美味しいご飯を作ってくれたかな?
台所からグツグツと鍋を煮込む音が聞こえる。いいわね、鍋。この寒い時期にはピッタリの食べ物じゃない。今日のクロウ君は百点満点!
でも、さすがの私でもこれはおかしいと思った。
「ル〜ルル〜ルララ〜」
鍋に小さな女の子が入って歌っています。サイズはティッシュ箱並みの女の子。髪が青くて背中に羽根が生えています。
これは……!
私は迷わず鍋のフタを閉めた。中からキャーだの出してだの聞こえるけど聞こえないフリをします。うるさい『食材』です。
クロウ君が慌ててやって来ました。トイレに行ってたみたいね。
「モモグリさん! なんでフタを閉めてるの!」
「よく煮込めるように」
「煮込まないでよ! 死んじゃうから!」
クロウ君は急いで小さな女の子を助けた。
女の子は苦しそうにヒーヒー言ってます。
「貴女がモモグリアキコさん? あたしを煮込み殺す気なの!」
女の子は私に次々と罵声を浴びせるけど無視。今私は疲労感たっぷりなんだから構ってられないのよ。
「ああモモグリさん。この子はフリージア。ボクの家で一緒に暮らしてた妖精」
ほう、妖精ね。たしかに妖精らしさを兼ね備えた可愛さを持ってるね。
「で、そのフリーダムちゃんはなんで鍋で煮込まれてたの?」
「あたしはフリージア! 煮込まれてたワケじゃないよ。お風呂に入ってたんだから」
ああ、鍋が浴槽の代わりね。勝手に人の鍋を浴槽として使わないでほしいわね。あとでクロウ君にサソリ固めをプレゼントします。
「クロウからの手紙を見て心配になって来たけど……、貴女すごく心配。クロウをちゃんと世話してくれるのか信用ならないよ」
「クロウ君、実家に手紙を送ってたんだ。ちなみに私のこと何て書いた?」
「美人だけど馬鹿で乱暴な人って書いた」
はい、サソリ固めからキ○肉バスターにランクアップしました。
「ところでクロウ君。今日の晩ご飯は何かな?」
「『エビ魔ヨネーズおにぎり』だよ」
あらま。マヨネーズが毒々しい紫色だわ。
「わぁい、魔ヨネーズ大好き!」
フリージアちゃんはマヨラーならぬ魔ヨラーなんだね。満面の笑みでおにぎりを食べてる。
私も食べてみたけどそれなりに美味しかった。
「フリージアちゃんはいつ帰るのかな? あまり遅いとクロウ君の実家の人達が心配するんじゃなくて?」
「大丈夫大丈夫。泊まるって言ってあるから」
それなら大丈夫ね。
――ってオイ!
「何勝手に泊まろうとしてんの! あっ、すでにパジャマに着替えているし!」
「おやすみなさい、アキコさん」
「はい、おやすみなさいフリージアちゃん――って寝るな!」
「スー……」
「コラァ!」
まったく、珍しく私がツッコミに回ってるじゃない。仕事で疲れてるからボケる余裕なんかまったくないのよ。
――翌朝、フリージアちゃんは新聞の広告を見ていました。
「アキコさん、見て! 大ヒット映画『Dev・Justice〜正義のデブ〜』のDVDが1980円とかなりの格安で売られているよ! 通常なら5280円で売られている代物だよ!」
「先着二十名様限定? フリージアちゃん、急いで買いに行くわよ!」
「ラジャー!」
すっかり仲良くなりました。