第47話:大変迷惑な変態
ピンポーン。
あ、誰か来た。
でも今洗濯物を取り込んでいるので手を離せないクロウです。モモグリさんは仕事仲間とお出かけしていていません。
ピンポーン。
今手が離せないんだって。もう少し待ってくださいな。せっせせっせ。
ピピピピピピンポーン。
連打しないでください。誰だか知らないけど落ち着いてください。
…………。
あ、諦めちゃったかな?
カチャカチャ……。
……ん? なにこの怪しい音?
ガチャン!
――!
鍵が開いたッ?
「誰もいないのかな?」
ああそっか、空き巣だね。わずか数秒で鍵を開けるだなんて、なかなか熟練したピッキングテクニックだ。
ボクはアイアンのゴルフクラブを抱えながら物陰に隠れた。相手が隙を見せたら魔法で捕まえて警察に突き出してやるんだ。
「秋子さんはいないのかな? せっかく会いにきたのに……」
現れたのはなんともカッコイい男の人だった。普通にしてたらモテそうだ。
もしかしてモモグリさんのストーカー? 趣味悪――いや、ゴホゴホ! 変わった人もいるものです(フォローになってない)。
空き巣が後ろを向いたところでゴルフクラブを振りかざす。ゴルフクラブから衝撃波が放たれ、空き巣の人は壁に頭をぶつけてよろけた。さらにもう一振り。近くにあったビニールテープが手足をグルグル巻きにして身動きができないようにした。
「わ、わ……! なんだいなんだい! なんだこりゃあぁぁッ!」
「今から警察に通報しますからね」
ボクが電話に手をかけると、空き巣の人はものすごく慌てながら「それはやめてくれ!」と訴えた。
「キミは僕を知らないのかい? テレビでよく見るだろう!」
「ごめんなさい、ピンときません」
「池照ヒカルだよ! 超イケメンタレントの池照ヒカル! またの名を『恋のナポレオン』とも言う」
「通報しますね」
「だから待ってくれって言ってるだろ!」
何なんでしょうかこのイケメン空き巣は。今さら見苦しいです。
「だってピッキングして不法侵入した時点でアウトだと思いますよ?」
「ピッキングじゃないよ。最後の鍵を使ったからどんな扉も開けられるんだ」
某有名ゲームじゃないんだから。
「まあ、とりあえず話だけでも聞いておきます……。なんで空き巣なんかやったんですか? もしかしてモモグリさんの下着とかを盗もうとしたんじゃないですか?」
「僕はそんな変態なことはしない。ただ秋子さんに会いたかっただけさ」
ストーカーをしている時点でアウトだと思うけどね。
「ほら、お土産だって持ってきたんだ。そこの紙袋に入ってる」
ボクは池照さんの紙袋を覗いた。何かの箱が入っていた。
箱を開けると、中に入っていたのは……。
「えっと、このヘアバンドは……?」
「犬耳ヘアバンドだよ」
なんて物をお土産にしてんだこの人は。
「あの秋子さんが犬耳を着けてごらんよ。なかなか似合うと思わないかい?」
「…………」
「ワンとか言ってごらんよ。ものすごく可愛いと思うよ」
まあ、モモグリさんは見た目だけは美人だからね、見た目だけは。だから否定はしない。
だけどね、モモグリさんが犬耳を着けたら可愛いどころかジャッカルになるからダメだよ。絶対殺られる。
「あと、もう一つお土産があるんだ」
もう一回紙袋を見る。今度は猫の肉球をかたどったフカフカの手袋が入っていた。なんてマニアックな物を買ってんだ。
「秋子さんにすごく似合うと思うんだ」
でも猫パンチどころじゃなくなるから危険だと思う。ライオンレベルにパワーアップすると思う。
「ところでキミは秋子さんの弟さんかい? いや、でも似てないね」
「ボクはただの居候です。親戚とかでもありません。それはそうと、通報してもいいですか?」
「それは勘弁してほしい。タレント生命にも関わるし、秋子さんにも会えなくなる」
だったら空き巣やストーカーなんかしないでほしいです。すごく迷惑です。
「頼む! 見逃してくれ! もうこんなことはしないから!」
「……ホントですか?」
「マジでマジで、超大マジ! この『ハニプリ』が嘘をつくわけがないだろう?」
「ハニプリ?」
「ハニカミ王子」
あんたハニカミ王子じゃないでしょうが。
まあ、でもこんなに必死に言うんだから一応反省はしているのかな?
「じゃあ今回は見逃してあげますから……。もう悪いことはしないでくださいよ? あなたは一応タレントなんですし」
「ああ、モチのロンさ! この池照ヒカル、約束は絶対に守るタイプのイケメンだからね!」
ホントかよと言いたい。
「じゃあね! 今度来る時は普通に遊びに来るから!」
池照さんはクルクル回りながら帰った。やっぱり通報するべきだったのでしょうか?
そして残された犬耳ヘアバンドと肉球手袋は、こっそりとロゼに渡してシオダさんにあげることにした。あの人なら持っていても不思議じゃないだろうし。
っていうか、もう来ないでください。