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第45話:微妙なアニメ

「えっとモモグリさん、これは一体何なんでしょうか……?」

「DVDよ」

 テレビの前に山積みにされたDVDを見て驚愕中のクロウです。

 読み終わって放置された週刊誌の山並みに山積みにされています。

 そしてDVDのタイトルが、

『カマキリの呪い』

 ある意味恐ろしいタイトルです。

 ――が、しかし。

 ケースに描かれているのは、明朝体で書かれた『カマキリの呪い』という文字と、いかにもマニアックなアニメの女の子キャラ。

 本当に何ですかコレは?

「紺ちゃんから借りたアニメよ。クロウ君の魔法の勉強にと思ってわざわざ全巻セットで持ってきたんだから」

 微妙にありがたくないです。

 いや、それ以前にこんなアニメが魔法の勉強になるわけがない。

「このアニメ、魔法使いが物語の舞台となっているんだって」

 カマキリが魔法でも使うのでしょうか。

 

 ――まあ、なんだかんだで見る羽目になってしまうわけですが。

 二人でテレビの前に座り、DVDプレイヤーの再生ボタンを押す。

「さ、始まるわよ!」

「始まっちゃうね……」

 色々と不安です。


 

 

 テレビを見る時は部屋を明るくして、

 できるだけ離れて見てください。

 ……おいそこのボケ、離れろって言ってるだろうがよッ! 百メートルくらい下がれッ!

 なに、見えないだと? 知るか! じゃあ見るな!

 

 

(※OP曲)

『膝枕、顔にエルボー』

 作詞:峰内 頻史

 作曲:花ヶ戸 尾俊

 

君の柔らかい膝枕 僕は夢の中へいざなわれる

君は僕の髪を撫で、そっと顔を覗き込む

にこりと優しい笑顔を見せて

僕の顔に真っ直ぐエルボーを入れる……

 

「寝顔が憎たらしい」と言われても

そんなのどうにもできないから

笑顔のままで連打しないで

いつか鼻血が出ちゃうから

 

君の素敵な膝枕 低反発枕にも勝るよ

既に夢か幻か、癒やされるサプライズ

こぼれ落ちるくれないの雫

鼻の骨が折れたかもしれない……

 


 

 第一話:呪いの始まり

 

 東京都内のとある家、一人の女の子は朝から慌ただしい様子で家の中を駆け回っていた。

 日本人らしい黒いセミショートの髪、目はぱっちりと大きくややつり目。前髪をピンでまとめてさっぱりとした印象。物語の時期は夏だから、白を基調とした爽やかな夏服を着ている。

「お母さんのバカー! 起こしてくれないから遅刻しちゃうじゃないのさ!」

 なんともベタな、朝のドタバタ。

「ユキ、ご飯は食べないの?」

 おたまを持って叫ぶ母親。薄ピンク色のエプロンがよく似合う。

 ユキとは慌ただしい様子の女の子のこと。本名は田中雪たなかゆき、高校二年生の女の子。

「ご飯なんか食べてる暇はないよ! 今急いでいるんだから!」

 しかし母親は「せめて味噌汁だけでも」としつこく叫ぶ。雪は仕方なく味噌汁を一気に口に含み、そして吹き出してしまう。ワカメが喉に張り付いてしまい、むせたのだ。

「行ってきます!」

「お弁当机に置きっぱなしよー?」

「あーもうヤダー!」

 

 朝から日差しが強くて、じんわりと汗がにじみ出る。夏だから暑いのは仕方ないのだけど、雪は暑さにはあまり慣れていない。そういう時は「暑くて溶けちゃう」とへばり、友人に「名前が『雪』なだけにね」とツッコミを入れられるのが日課となっていた。

 しかし今は遅刻しないために通学路を全力疾走している。

 食パンでも食わえながら走れば、曲がり角の所で見知らぬ美男子とぶつかって「あ、カッコいい! 胸キュン!」というベタ過ぎる展開になっていたのだろうけど、このお話はそういった展開に持っていく気はまったくなかった。

 実際は曲がり角を曲がれば、

「きゃっ、カマキリ踏んじゃった!」

 この始末である。

 ペチャンコになり体液を垂れ流すカマキリの目は、雪のことを悲しげに見上げていた。

 

「おはようッ!」

 雪は教室に滑り込んだ。

 時計の針は八時二十五分を指し示している。登校時間は八時三十分。意外と余裕をもって到着できた。

 しかし、何故だか担任の若い男教師が既に出席を取っていた。

「田中、残念だがお前は遅刻だ」

 教師が言った。

「いやいや先生、間に合ってるから遅刻じゃないですよ」

「いやいやいやいや、残念だがあの時計は五分遅れているんだ。だから今はもう八時三十分、タイムリミットを過ぎているんだなコレが」

「なっ、なんですって!」

 自分の携帯電話を見ると、悲しいことに八時三十分と表示されていた。それもデジタル表記で。


 ――一時間目、国語。

 小太りで眼鏡をかけた中年の男の先生が、ざわついた教室を静めた。

「はいはい、じゃあ前回言った宿題の確認をするよ」

 宿題――漢字の書き取り。なんだかやたらと難しい漢字を出された記憶がある。

「指名した者に前に出て書いてもらうから。はい、えー……田中!」

 こんな時に限って自分が当てられる。雪は先生を恨めしく思った。

 黒板に平仮名が書かれた。あれを漢字に直すらしい。

 ちゃんと宿題をやっておいたからなんとなく分かるが、それでも頭がモヤモヤする。忘れかけているみたいだ。

『あんぎゃ』

 雪はチョークを持ったまま固まった。

 あんぎゃ、アンギャ……あんぎゃ? 宿題はちゃんとやったのにな……。たしか始めの字は『行』だった気がするけど、二文字を忘れた。うん、忘れたの。

「田中、宿題サボったのか?」

「いえ、やったけど覚えていないだけです!」

「そうか。でも覚えていなかったから減点な」

「ええーっ!」

 

 続く二時間目、物理。重りを使う実験の最中に、重りを足の薬指に落として内出血。

 三時間目、体育。プールで泳いでいたら両手足をつってしまい溺れた。危うくゴリラみたいな体育教師に人工呼吸されそうになった。

 四時間目、自習。教室に先生がいなかったから友達と談笑していたら、笑い過ぎて息ができなくて死にそうになった。

 

 そんなこんなで昼休み……。

「今日は絶対に何かがおかしい!」

 雪は叫んだ。

 今は仲の良い友達と弁当を食している。

「だって朝のテレビで占いがやってたけど、私の星座は一位だったもん!」

「どうどう、ユキちゃん落ち着いて」

 眼鏡をかけて肩まで伸びた長い髪の女友達――加藤希美かとうのぞみは両手首をパタパタさせて「まあまあ」といった動作をした。

「ということはだね希美、私はテレビ局に騙されたということかしら? こりゃあ訴えてやらないと気が済まないわよ」

「所詮占いなんだからそこまでしなくても……」

「シャラーップ! 不正をもみ消すような社会は大嫌いなのよ!」

 それより、朝あれだけ寝坊すると騒いでいてテレビを見る余裕などあったのか不思議だ。

 雪は大好物である鶏の唐揚げを箸で掴んだ。が、滑って教室の床に落としてしまった。

 大好物であるためショックは大きい。こう、胸の気持ちを大根おろしのようにジョリジョリやられたような気分であると本人は言う。

「不幸だわ……、あたいは今人生のどん底にいるだわさ……」

「たかが唐揚げでそんなに落ち込むことないでしょ……? っていうか口調が変だし」

「もうイヤこんな日常! 泣いていい? 泣いていいかな?」

「ユキちゃん、呪われてるんじゃないの?」

「なんで私が呪われなくちゃいけないのよ〜。私はいつでも清き正しい行いをしているのに」

「例えば?」

「ん〜、寝る前に胸の前で十字架を刻んでおくとか」

「どこ教の人間なのよあなた?」

「まあ、でも今日学校に来る時カマキリを踏んじゃったけどね」

「あ、じゃあそのカマキリに呪われたんだよきっと」

「あはは、カマキリにそんな力があるわけないじゃない!」

 その時はなんとも思っていなかった。呪いなんて馬鹿馬鹿しいと思った。

 でも――

 

 

 第一話、終

 

 

 

「えっ、第一話がえらく中途半端に終わったよ?」

「終わったわねぇ」

 普通なら今のところでCMを挟むでしょ。まだ魔法とか出てきてないよ。

「モモグリさん、これ……全部見るの?」

「んー、どうしよっか。なんかイマイチよね」

 とりあえず、このDVDは適当に放置されることになりました。


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