第39話:マホーツ界へ行こう前編
――西暦三千年、人類は滅亡の道を歩んでいた。
人類が生み出した核兵器をも上回る恐怖のマシン、マジハンパネー。見た目はいたって普通のオートマチック車だが、内臓された武器はマジで半端ねえ。
そのマジハンパネーが暴走した。早く止めなければ、人類の存続が危うい!
主演男優マイケル・アウチ! 主演女優エリザベス・ナンテコッタ!
全米が泣きそうになった!
『MAJIHANPANE〜狂気満ち溢れるオートマチック〜』
○月×日、日本上陸――。
「ワンパターン!」
モモグリさんは映画のコマーシャルを見ながらそう言った。
「なんでもかんでも人類滅亡の危機って、そのパターン飽きたわ! お中元でそうめんをたくさんもらって、それを処理するために毎日食べないといけないぐらい飽きた!」
さいですか。
ボクは意味もなく訴え続けるモモグリさんを無視し、テーブルに積み上げられたお菓子の山に手を伸ばす。
すべてスナック菓子です。何袋あるのかな? 多すぎて数えられないや。
なんでこんなにお菓子があるのかというと、モモグリさんがゲームセンターで取ってきたらしいです。ほら、よくお菓子がたくさん詰まった袋がクレーンゲームにあるでしょ? アレです。
フリージアは、さっきからスナック菓子に魔ヨネーズを付けて食べています。絶対太る。
「――でね、私が映画を作るなら、人類滅亡じゃなくて別の展開にする。例えば……そう! ゴキブリ滅亡とか!」
モモグリさんはまだ何か言ってました。無視するけど。
「インカ帝国の滅亡とか!」
インカ帝国はとっくにないけど。
「インカ帝国が滅亡して、本当にいインカ! なんつって」
わ、さぶいオヤジギャグ。思わずさぶいぼが出ちゃったよ。下手な怪談話よりも身が凍えるよ。
「あたしなら、魔ヨネーズ滅亡が一番泣けるかなぁ」
今のは魔ヨラーフリージアの発言です。っていうか、もう『魔ヨネーズの妖精』って名乗ったほうがいいと思います。最近魔ヨネーズネタばかりだし。
とりあえず、魔ヨネーズを知らない人のために、ボクが魔ヨネーズのことを教えますね。
魔ヨネーズは紫色のマヨネーズです。以上。
「私からしたら、人類が滅亡なんて漫画や映画だけのもんよ。実際人類が一気に滅亡するチャンスなんてそうそうないでしょ?」
チャンスって、オイ。
「モンスターの来襲、魔王降臨、未来都市における機械類の暴走、神の裁きなどなど。実際には有り得ないけど、娯楽として見る分には楽しいわよね」
うん、たしかに。
でもね、モモグリさん。その中で一つだけ、ボク達の世界では有り得ることがあるんだ。
それは、魔物の来襲。
魔物と言っても悪い魔物ばかりじゃない。良い魔物だっている。その証拠に、ボク達の世界――マホーツ界のコンビニで魔物がアルバイトをしていることがある。
昔、眼科でメデューサが働いていたのには驚かされた。「はい、それじゃあ私の目を見てくださーい」って、見れるもんか。石になっちゃうでしょうが。
悪い魔物は本当に悪い。町を荒らすことはもちろん、人々の食べ物を奪ったり、公衆トイレをわざと詰まらせたり、振り込め詐欺をしたり、道端に画鋲を仕掛けたりと色々な悪事を働く。
このことをモモグリさんに話したら、途端に目を輝かせました。
「私、マホーツ界に行きたいわ!」
突然何を言い出すんだ、この人は。
「マホーツ界に行って、悪い魔物を退治したい!」
勇者気取りでしょうか。
っていうか、それ以前にマホーツ界へ行くのは不可能なんです。行くためには、魔法で人間界とマホーツ界との間にある空間を歪ませて移動できるようにしないといけないんだけど、学校の生徒レベルじゃそんな魔法は使えないんです。だからボクはそんな魔法が使えないから、マホーツ界へ行くことができな――、
「じゃあアキコさん、あたしがマホーツ界に連れて行ってあげる!」
「ホント? わーい、ありがとうフリージアちゃん!」
ふ……フリージアがいたぁーッ!
そういえばフリージアも魔法を使うことができるんだった! 普段はあまり使わないけど、魔法のレベルはそこそこ高い。だからフリージアは人間界とマホーツ界を自由に行き来できる魔法を使うことができる。そのおかげでモモグリさんの家に来られるわけ。
「よっしゃ! じゃあクロウ君、早く身支度をしなさい!」
い、今から行くのッ?