第38話:魔ヨ地獄
さてさて、久しぶりにフリージアちゃんがウチにやってきたわけなんだけど、正直言って迷惑です。
理由としては、毎朝毎晩魔ヨネーズ料理を作るからです。それも大量に。
「今日のぉ〜、晩ごっ飯はぁ〜、エビ魔ヨおにぎり〜!」
わーい、超いらない。魔ヨネーズはもう飽きちゃったわー。
……毎朝毎晩魔ヨネーズ。頑張って作るのを阻止しても、魔ヨネーズを使ったお菓子を作るという始末。
このままだと、わたくし桃栗秋子は魔ヨネーズノイローゼになってしまいます。魔ヨネーズを見ただけで発狂してしまうんじゃないかというぐらいのヤバさです。
こういう時は、困った時のクロウ君頼みです。フリージアちゃんの魔ヨネーズ料理をやめさせる知恵を貸していただきたい。
「うん、正直言ってボクもそろそろ限界だったんだ……」
クロウ君はうんうん唸りながら解決策を考えます。私は側で見守ります。決して邪魔はしません。なぜなら、今回は私の命もかかっているから。
「モモグリさん、思いついたよ」
「あら、期待しちゃうわよ」
「ここは正直に、もう料理を作るのはやめてほしいって言おう」
フリージアちゃんはテーブルの上でノートに何かを書き込んでいました。鼻歌を歌いながら、そして楽しげに。
「明日はぁ〜、魔ヨネーズサラダ〜、明後日はぁ〜、んフッフフゥ〜」
献立表……いや、死のメニューの作成に勤しんでいます。くそっ、早くあの陰謀を阻止しなくては、我々の命はあと数日も保たない。急ぐんだ、クロウ隊員! 出動っ!
「あ、あのさぁフリージア……」
「なによクロウ?」
そう、まるで別れ話を切り出す彼氏の如く控えめに、そして申し訳なさそうに!
「もう魔ヨネーズ料理を作るのをやめてくれない?」
「……どうしてよ?」
あ、フリージアちゃんの顔が険しくなった。
「まさか、まさか……もしかして!」
「理由に気付いてくれた?」
「あたしの魔ヨネーズ料理が美味しくて、これ以上病み付きになるのが恐ろしいのね? 美味しすぎて、他の料理が食べられなくなるんじゃないかと心配なのね!」
わお、素晴らしく前向きな発言をありがとうございます。バーカ!
私はクロウ君の後ろから『さっさと話を着けなさいよオーラ』を放つ。心なしかクロウ君が身震いしたような気がした。
「違うんだフリージア。ボクが言いたいのは、魔ヨネーズ料理ばかりで飽きたから、もう作らなくていいよって言いたいんだ」
よし、わりとストレートに言ったわね。
「……じゃあ、魔ヨネーズ料理以外のものも作ればいいの?」
「えっ?」
えっ?
「じゃあ次は傷油を使った料理を使ってあげる」
傷油……なんてよく知らないけど、今度は傷油でノイローゼになってしまうわ。
そんなのダメよ。精神を破壊しかねないこの行為、それを繰り返してはいけないの。歴史は繰り返すなんて言うけど、繰り返してはいけない歴史を繰り返さないように歴史を塗り替えていくのが私達残された人間の役目なのよ! うん、なにを言ってるんだ自分は。
そのためには、フリージアちゃんには一切料理をさせないこと、これが絶対条件になる。トーストを焼くのも、冷凍食品をレンジでチンするのも禁止。飲食に関わることはすべて規制しなくては生きていけないの。ヘタしたら、ゆで卵を普通にチンされかねないし。
クロウ君じゃ当てにならない。仕方ない、ここはわたくし桃栗秋子様が直々に話すしかないわね。
「というわけでフリージアちゃん」
「なに、アキコさん?」
「有無を言わさず料理禁止」
「やだ」
…………。
ちょっとカチンときたわ。
「フリージアちゃん、もう一度言うわよ」
「なに?」
「料理禁――」
「やだ」
…………。
あ、あらやだ、私の握り拳が震えてる。
「じゃあフリージアちゃん、言い方を変えるわ」
「なに?」
「料理するんじゃねぇ」
「やだ」
「やだじゃないわよーッ!」
もう怒った。許せない。
私は大きな洗濯バサミを取り出し、それをフリージアちゃんの顔に挟んでやった。
「痛いっ! 挟むのは痛いわよっ!」
「貴様なんか……貴様なんか妖精を気取った悪魔だーッ! 死ねえっ! 貴様の死因は『洗濯バサミで挟まれ死』だッ!」
「きゃああぁぁッ!」
――悪の陰謀を阻止しました。これでもう罪のない人間が苦しめられることはありません。
さようなら、フリージアちゃん。死因は『洗濯バサミで挟まれ死』……。
「ちょっと、勝手に人を殺さないでよ!」
しかしフリージアちゃんは私達の心の中に生きています。ふと思い出す、洗濯バサミで顔を挟まれた時の不細工顔。私はそれを、一生忘れない……。
「だからあたしは死んでないって!」
さて、今日の晩ご飯は何にしようかしら。久しぶりにピザでも食べようかな。
「ちょっとアキコさん、無視しないでよ! あたしグレるわよ!」
「クロウ君、何ピザが食べたい?」
「うーん、じゃあボクはシーフードピザで」
「オッケー。じゃあ私はイタリアンなやつにしようっと」
「だからあたしを無視しないでってば! うわーん、アキコさんがあたしを苛める!」
うるさいので、ピザに魔ヨネーズをぶっかけたものをあげて黙らせました。