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第37話:KYY(空気が読めない妖精)

 あー、お仕事疲れた。早くご飯を食べて、ぐっすり寝たい桃栗秋子です。

 重い体を引きずりながら、ようやく帰宅。疲れた疲れた。

「ただいまーっと。クロウ君、ご飯は何かなぁ?」

 台所を見るが誰もおらず、それなのにお鍋のお湯がグツグツ沸いていた。そして、お鍋の中に小さな小さなティッシュ箱サイズの女の子が入っていた。

「あら、アキ――」

 蓋を閉めました。

 なんか中から出してだのなんだのという声が聞こえるような気がするけど、きっと気のせいです。テレビの音か何かでしょう。もしくは幻聴。食材はおとなしくするべきです。

 と、どこからともなくクロウ君が慌てながら現れて、お鍋の蓋を取りました。洗濯物をたたんでいたようです。

「モモグリさん、なんで蓋なんかしてるの!」

「や、よく茹でられるように」

「フリージアを茹でないでよ!」

 小さな女の子もとい、妖精フリージアちゃんはヒーヒー言いながらテーブルの上で倒れました。

「アキコさん! あたしを茹で殺す気ッ?」

「まあまあ落ち着きなさいって、ファンタスティックちゃん」

「あたしはフリージア! “フ”しか合ってないじゃないの! あたしのこと忘れたのッ?」

 忘れるわけないじゃない。冗談よ冗談。これまでの一連の動作はすべてわざとだから。それぐらいわかりなさいよ。

「で、フリージアちゃん、なんでまたウチに来たわけ?」

「暇だから」

 ウチは立ち読みできる本屋か。

「まったく、再会した早々になんてことするのよ。行動パターンが初めて会った時と同じじゃない」

 歴史は繰り返すって言うし。

「とりあえず、またしばらくお世話になるつもりだからよろしくね、アキコさん」

「はいはい、ゆっくりしていってちょうだい」

 ということで、またフリージアちゃんと一緒に過ごすことになりました。


 次の日の朝、フリージアちゃんが朝ご飯を作ってくれることになりました。なんでも、最近料理を作るのが趣味らしく、自分の腕前を見せてやりたいそうな。

「アキコさん、クロウ、できたよ!」

 さて、どんな料理を作ってくれたのかしら。一応にも妖精さんだから、それはもうメルヘンチックなものがあるに違いないと、妄想が一人歩きしてしまう。例えば、メイプルシロップたっぷりのパンケーキとか、森の野菜グラタンとか。

「さあ二人とも、召し上がれ!」

 ジャーン! というSEが鳴りそうな感じに料理を差し出してきた。

 紫色をした魔ヨネーズがたっぷりとかかったパンケーキでした。心なしか、生地の色も紫色です。ダークです。

「生地にも魔ヨネーズを混ぜてみたんだけど、どうかな?」

 そういえばフリージアちゃんはマヨラーならぬ魔ヨラーだったわね。

 紫色のパンケーキ……。ブルーベリーで作ったならまだしも、魔ヨネーズで作ったとなると食べたくなくなる。

 戸惑いを隠せない私とクロウ君、ついついあからさまに嫌そうな表情になる。「絶対不味いわよね」、「うん、下手したら吐く」と目で語り合う。

「二人とも、何をそんなに変な顔をしてるの? あ、そっか。お代わりがあるか心配なのね。大丈夫、そんなこともあろうかと思って、お代わりはたくさん用意してあるから! 遠慮せず食べて!」

 勘違いをするフリージアちゃん。思わずため息が漏れる。

「フリージアちゃん、良いこと教えてあげる」

「なに、アキコさん?」

「最近人間界では、空気が読めないってことをKYって言うのよ」

「へえ」

「このKYーッ!」


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