第35話:桃栗の弱点
キャップが捕まりました。ざまーみろ、やーいやーい!
ということで皆さんご機嫌いかが? 終始ハイなテンションの桃栗秋子です。最近のマイブームはイトコン――糸こんにゃくをおそばをすするかの如く吸うことです。
さて、キャップがいなくなり、私の周りに平和が戻りました。やっぱり悪は滅びるべきなのよね。正義は必ず勝つ!
「気絶しているキャップを散々殴っておいて、なにが正義だか……」
「シャラップ、クロウ君! 余計なこと言ってるとイトコンを喉に詰め込むわよ!」
プルップルのイトコンを喉に詰まられせ悶え苦しむがいいさ!
「ところでモモグリさん」
「んっ?」
「足元にゴキブリがいるけど……」
「なぁに、ゴキブリがどうかし――」
足元を見て硬直。
あの油ぎった茶色いボディにギザギザの足、そしてウニョウニョと動く触角――、
「ご……ごごごごゴキブリよーッ!」
瞬間移動をしたんじゃないかというぐらいの速さでクロウ君のところに逃げる私。あのね、ぶっちゃけゴキブリは苦手なのよ。
「モモグリさん、前にゴキブリが現れた時はわりと平気そうだったじゃない。なんでそんなに怖がってるの?」
「遠くで見てるぶんには問題ナッシングなのよ! 近付かれると嫌なの! 半径一メートル以内のゾーンに入ってきたらダメなの! 名付けてAM(秋子・桃栗)ゾーンなのよ!」
「ゴキブリが苦手だったなんて……ちょっと意外だね」
なに私の弱点を見つけたみたいな顔してんのよ。もしゴキブリネタで脅迫しようものならマジでぶっ殺すわよ。冗談抜きで。
「なんでゴキブリが嫌いなの? 別に怖くないでしょ」
「それには底なしの沼よりも深い、ディープな理由があるのよ」
あれは私が小学校三年生の頃だったかしら。
当時から周りを魅了する美貌を持っていた私は、昆虫採取に夢中だったの。
虫取り網を新体操のリボンのように扱う私……。それはまるで、小さな妖精がこの世に舞い降りた瞬間だったと言っても過言じゃないわ。それによって付けられた二つ名が『虫取り界のコマネチ』だったわ……。ん? 確かコマネチって新体操の選手じゃないわよね? ま、いっか。
陽が沈んでいるのにも気付かないほど虫取りに夢中だったわ。虫かごにはたくさんの昆虫が詰まってた。
頑張って取った昆虫、輝かしい栄光。ああ、命って素晴らしい。お父さんに見せたらこの虫達は逃がしてあげよう。
私は軽やかなステップを刻みながら家に帰ったわ。途中カエルを踏んだ気がしたけど、なんかめんどいからスルーしたわ。
「ただいま!」私は虫かごを頭上に掲げながら玄関を走った。早くお父さんに見せたいがためにね。
その時お父さんは雑誌を読んでいた。今思い返すと、あれは確かエロ雑誌だった気がする。
「お父さん見て、コオロギをいっぱい取ったよ!」
元気いっぱいに虫かごを掲げる私。その光景は、まるで金メダルを獲得したオリンピック選手のようだった。
お父さんは虫かごの中を見て、叫んだ。
「バッ……! お前これコオロギじゃなくてゴキブリだよ!」
なんということでしょう。コオロギだと思っていた昆虫はゴキブリだったのです。虫取り界のコマネチ、痛恨のミスが発覚。金メダルは剥奪です。
「どこでゴキブリなんか取ってきたんだお前は! 早く捨てろバカ!」
「う、うんっ!」
ゴキブリを捨てろ、と。
そう言われ、幼い私は虫かごの蓋を開けた。
勢いよく飛び出すゴキブリの群れ。祝杯のシャンパンが黒くなったみたい。
部屋中に拡散するゴキブリ。お父さんは飛び回るゴキブリに驚愕してエロ雑誌を振り回す。
「このバカ野郎がーッ! 部屋にゴキブリを放流するんじゃねえッ!」
父激怒、エロ雑誌を握り締めながら。
私の顔にゴキブリが乗っかった。泣いた。大号泣。お部屋の中心で助けを求めた。
――思い出話、終了。
「っていうことがあってね、ゴキブリは苦手なのよ」
「…………」
クロウ君、心底どうでもよさそうな顔をしてる。自分から聞いておいてその顔、シンプルにむかつく。
「それはそうと、早く魔法を使ってゴキブリを始末してちょうだい!」
「はいはい……」
「前みたいにゴキブリを爆発させたら、クロウ君の今日のご飯はイトコンのみ(調味料使用不可)だからね!」
「エーッ!」
イトコンのみを食べるのが嫌なクロウ君は、ものすごく必死にゴキブリの駆除をしました。魔法によって強化された『鋼鉄新聞紙』を片手に、ゴキブリが完全に動かなくなるまで叩き続けていました。そんなにイトコンが嫌だったのかしら?




