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第32話:鮮血のキャップ

 ある朝、郵便物の中に一通の手紙がありました。私とクロウ君宛てにライトって人から来ていました。

 ライト……? そんな名前の知り合いいたかしら……。

 でもすぐに思い出しました。ライトってたしかクロウ君の学校の校長先生です。ハゲてるらしいです。

 手紙の内容はこういうものでした。


――――――


 ご無沙汰しております、ライトです。

 早速ですが本題に入ります。

 マホーツ界にて大量殺人を犯した凶悪犯がそちらの人間界に逃亡したということです。

 気をつけてください。


――――――


 随分と簡単に言うけど、殺人鬼ってリアルにヤバいんじゃないの? マホーツ界の警察は何やってんのよ。っていうかマホーツ界に警察なんてあるの? まあいいか。

 クロウ君を起こして朝食を作る。今日は私がフレンチトーストを作ったげるわ!

「ふうん、殺人鬼ってまだ捕まってないんだ」

 クロウ君も手紙を見たらしい。

「ねえクロウ君、殺人鬼ってどんな奴?」

「名前はキャップ、『鮮血』の二つ名を持ってる。なんでも道化師のような格好をしているらしいよ」

「じゃあサーカスに行ったら人気者ね」

「み、見た目だけだとそうかもね……」

 はい、フレンチトーストの出来上がり!

 さあ召し上がれ!

「モモグリさん……このフレンチトースト、すごくしょっぱいよ……」

 …………。

 お塩とお砂糖、間違えちゃった。私ったらベタねえ。


 さて、私は仕事です。スーパーで働いています。

 商品の陳列をしたり、お客様に挨拶したり、試食品を奪ったり、店長にチョップをかましたりして忙しいです。

「すいません、ちょっといいですか」

 おっと、お客様が呼んでるわ。

 私はとびっきりの営業スマイルで振り向いたが、すぐに顔が凍りついた。


 ピエロが立っていた。


「すいません、ちょっといいですか」

 ピエロは言葉を繰り返した。

 赤い付けっ鼻。真っ白に塗りたくった顔面に星や月のペイント。ハリセンを丸くしたようなものを首に付けて、真っ赤な服を着ている。

 はっきり言って、周りから浮きすぎている格好です。痛々しいです。

「魔ヨネーズはどこに売っていますか?」

「マヨネーズですか?」

「いえ、魔ヨネーズです」

「だからマヨネーズですよね」

「いえ、ですから魔ヨネーズです」

「マヨネーズでしょうが」

「イントネーションが違います。魔ヨネーズです」

 こいつややこしい言い方をするわねえ。魔ヨネーズなんかあるわけないでしょうが。

「というわけで魔ヨネーズはないのでマヨネーズを買ってください」

「ふふっ、わかったよ……」

 ピエロはニヤリと笑った。

 気色悪ッ! 帰れ帰れ!

 でも後から思ったんだけど、なんであのピエロはマホーツ界にしかない魔ヨネーズのことを知っていたんだろう……。


 帰宅時間です。スーパーから自宅までは近いので歩いて帰ります。

 帰る際にペットボトルジュースを買いました。店員だから値段が安くなります。お得お得。

 暗い夜道を一人で歩く。不思議と周りには誰もいない。

 こういう時って何故だか誰かにつけられているんじゃないかと心配になるのよね。後ろを振り向くとストーカーが電柱の陰に隠れていた、とかそういう感じ。

 私って麗しき美女だからストーカーにつけられていてもおかしくないわよねえ、と謎の自信に満ち溢れながら後ろを振り向くと……、


 ピエロが立っていた。


「あんた昼間の魔ヨネーズピエロ! なんでこんな所にいるのよ!」

 まさか働いている可憐な私を見て一目惚れしちゃった、とか? ふっ、美しい女って罪ね。

「ふふっ、キミから魔力を感じたんでね、もしかしたら魔女かな、と思ったんだ。でも違ったね。キミは魔ヨネーズを知っていたけど魔女ではない」

 ピエロは不気味に笑いながら私に近付く。

「その体から感じる魔力は誰のものかな? 知り合いに魔法使いがいるんだろう?」

 こいつまさか、今朝の手紙に書いてあった殺人鬼の……、

「先月のキャップ!」

「鮮血のキャップだ」

 惜しいっ。

「ふふっ、僕のことを知っているのか。やっぱり知り合いに魔法使いがいるんだね」

「まあね。で、その殺人鬼さんが私に何の用かしら? サーカスに入るために曲芸を教えろって言うんじゃないでしょうね」

「違うよ、僕はただ魔法使い達を殺したいだけさ」

 こいつ、コメディだっていうのにヤなこと言うわね。そういうのは別のジャンルでやってほしいものね。

「魔法使いはどこにいるんだい? 教えてくれないと……キミを殺すよ」

 キャップの奴が頭上に手を掲げると空間に裂け目ができ、そこから禍禍しい雰囲気を放つ大鎌を取り出した。

 月明かりに照らされ不気味に輝くやいばは私に若干の恐怖心を与えた。

「おや、キミはこの鎌を見ても恐怖に怯えて逃げたりしないんだね。まあそれでも多少は怖いだろう?」

「ええ。でもこんなのはゴキブリを見つけた時と同じぐらいの怖さだからどうってことないわ」

「なるほど、僕はゴキブリ並みということか……。いいだろう、キミは五体を失い、地面を這いつくばるといい!」

 キャップは鎌を構えロケットのように突進してきた。あいつ、魔法で宙に浮いてる。

 私はとっさに買い物袋を投げつける。キャップは鎌で袋を切り裂いた。一振りしただけで真っ二つになった。だけどそれが私の狙いでもある。

 袋から溢れる黒い液体。それがキャップに向かって一斉に飛び散った。

「なんだ、これは……! 目に入って……痛い!」

 ふっ、それはさっき買ったコーラよ。炭酸が目に染みるでしょう!

 キャップは悲痛な叫びをあげながら目を押さえている。あはっ、隙だらけよ!

「くらいなさい! 必殺、麗しき左ニーキック!」

「ぐわあぁぁッ!」

 顔面に思い切り膝蹴りをくらわせました。あ〜スッキリした。

 鼻血が出てる? そんなの知ったこっちゃないわ。

「さらば、ピエロ野郎!」

「ぐぅッ……待て……! 逃がしはしなグエゥッ!」

 私は去り際にもう一撃膝蹴りをくらわせ、猛ダッシュで逃げました。


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