第30話:モロコシフィーバー
たまには私だって真面目に悩むのです。悩む女性は美しい、Akiko Momoguriです。なんとなくのローマ字表記です。
私の目の前にあるのは、我が家にたった一つだけしかないトウモロコシ。英語にするならコーンフロスティです。あ、フロスティはいらないか。
このトウモロコシをどうやって食べるか、私は悩んでいるのです。
第一候補。蒸して塩ふって食べる。一番ベーシックな食べ方だと思う。
第二候補。醤油を塗って焼く。祭りの屋台を思い出させる香ばしい香りが魅力的。
第三候補。粒を取って集めてバターコーン。好きなのよ私。
第四候補。味噌ラーメンにコーンをぶっ込む。これも好きなのよ。
第五候補。……あ、ごめん、やっぱ第四候補まで。
というわけで、私の脳内では四つのトウモロコシがルール無用の残虐ファイトをしています。いつまで経っても決着の着かないファイトです。
「モモグリさん、なに一人でブツブツ言ってるの?」
「うるさいわね。今味噌ラーメンがバターコーンにフランケンシュタイナーをかけたところなのよ!」
「……?」
味噌ラーメンがどうやってフランケンシュタイナーをかけたかなんて聞かないでちょうだい。今みんなは必死に戦っているのよ、邪魔しないで。
「モモグリさん、ボクは天ぷらにして食べたいな」
「ああん、なんですって? Japanese Tempuraなんて邪道よ! 問答無用で却下!」
「英語の発音がイイね。どうでもいいんだけどさ」
「クロウ君はどうやってトウモロコシを食べたい?」
「だから天ぷ――」
「却下ーッ!」
「…………」
「…………」
「天ぷ――」
「却下ーッ!」
「て――」
「却下ーッ!」
「あの……」
「却下ーッ!」
「うるさいです」
「キック!」
「はうぅッ!」
悪の天ぷら小僧は片付けた。あとはトウモロコシを調理するのみ。
だけど……やっぱり悩んじゃう……。
ピンポーン。
あら、誰か来たみたい。紺ちゃんかしら。
「宅急便でーす」
ただの宅急便か。
私は印鑑を押してダンボール箱を受け取った。少し重たかった。何が入っているんだろう。
送り主は……桃栗椛。実家にいる私のお母さんからだ。
箱の中身を見て私は驚愕した。
「と……トウモロコシよ……」
なんとトウモロコシが箱いっぱいに詰め込められていた。
やった、やったわ! トウモロコシ祭りよ! これでメニューに困らなくて済む!
「モモグリさん、手紙が入ってるよ」
箱の中にはお母さんからの手紙が入っていた。私はそれを声に出して読み上げる。
クロウ君、ツッコミよろしく。
「秋子ゑ」
「『へ』じゃない!」
「秋子、お元気ですか。お母さんは元気モリモリです。便通もモ――」
「そこはなんとなくカットしておこうよ」
「最近お父さんがDVDにハマり始めたんですよ。特にアダル――」
「カット」
「畑でトウモロコシを大量にゲットだぜ!」
「なにそのノリ!」
「秋子はトウモロコシが大好きだから送ることにしました。」
「優しいお母さんだね」
「PSP」
「一個『P』いらない」
「たまにはこっちにも帰ってきなさいよ?」
お母さんは相変わらず元気みたい。よかったよかった。
それはそうと、これだけトウモロコシがあるんだから早速食べないと!
「クロウ君、今日はトウモロコシでフィーバーするわよ!」
「やったー!」