第29話:真っ白コートのエセ関西弁少女
ボロアパートの『今にも崩れ荘』に怪しい少女が忍び寄っていた。
真夏だというのに真っ白のダッフルコートを着こなし、日用品の入った学生鞄を手に、きびきびとした足取りでとある部屋へ向かう。
塩田紺、そう書かれた表札を見てドアをノックした。
「はいはいどちら様ですか〜」
部屋の中から縦巻きお嬢様ヘアーの女性が出てきた。彼女が塩田紺だ。
紺は少女を見た。
うん、こんな子知らない。しかも見た目が非常に暑苦しい。真夏にコートって。
紺が少女をジロジロと眺めていると、手紙が入った封筒を手渡された。
「あなた郵便屋さんなの?」
「ちゃうわ。ええから読んでぇな」
少女はハキハキとした関西弁で喋った。しかしどこか関西弁とは違う雰囲気だった。きっとエセ関西弁なのだろう。
紺は手紙を読んでみた。
「なになに……、塩田紺様へ。暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。わたくしはマホーツ界魔法学校校長のライトというものです。実はそこにいる我が校の生徒ロゼを一年ほど居候させていただけないでしょうか。我がマホーツ界魔法学校では……」
真っ白コートの少女ロゼが持ってきた手紙には、クロウが桃栗に渡した手紙と同じことが書いてあった。ロゼもまたクロウと同じ見習い魔女なのだ。
「つまりロゼ、あなたもクロウ君と同じってわけなのね?」
「えっ、あんたクロウを知ってるんか?」
「私の知り合いの所にいるの。イイわよねえクロウ君って、可愛い顔しちゃってさ!」
「たしかにあいつは学校でもそこそこモテてたらしいからなあ。……おっと、クロウはどうでもええんや。ウチが居候するのを許可してくれるんかいな?」
この瞬間、紺の脳内コンピューターがフル稼動した。
1.このロゼという関西人もどきはクロウ君と知り合いらしい。
2.ロゼがいるという理由を使ってクロウ君に会えるかもしれない。
3.上手く行けば、大した用事もないのに秋子の家に遊びに行けるようになるかもしれない。
4.あとクロウ君が通うマホーツ界魔法学校とやらのことも分かるようになる。
5.一石何鳥にもなる。
ロゼの利用価値が十分にあると考えた紺は居候を許可した。
「ありがとな紺さん。これからはお互いパートナーや、よろしく頼むで」
「オッケー、仲良くやっていきましょ!」
二人は握手を交わした。
「ところでロゼちゃん、その真っ白なコート……着ていて暑くないの?」
「ああ、全然へっちゃらや。このコートには冷房効果が搭載されてるんや。ほら、人間界にも作業服に扇風機だかなんだかがくっついたもんがあるやろ? あれと似たような感じや」
「ふーん」