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第21話:優しい小悪魔

 ある日の夜。

 なにやらモモグリさんが昔話をしてくれるらしいです。

 ボクが勉強をしているのにですよ。これは確実に勉強の妨害を試みているんだと思う。

「昔ある所にジャックという人がいました」

 ……ジャックと豆の木らしい。ボクはよく知らないけど。

「なんかでっかい豆の木がありました。ジャックはビビりました」

 随分とアバウトな進行だね。どうでもいいんだけどさ。

「巨大な豆の木に興味津々のジャック。ジャックは思い切って豆の木によじ登りました」

 ふんふん。

「しかし途中で足を滑らせて落っこちましたとさ、ちゃんちゃん!」

 コラ。

 いっぱいツッコミを入れたいところだけど耐えるボク。心なしか持っているペンが震えているような気がする。

 そしてモモグリさんは冷蔵庫からアイスキャンディを持ってきて、わざとビチャビチャと音を鳴らしながら食べる。ものすごく耳障りな音だ。

「ん……どうしたのクロウ君?」

「もう少し静かに食べてください」

「大人しくチュパチュパしろと?」

「う〜ん……なんか微妙な表現だけど、とにかくボクは勉強をしているから集中したいんです。静かにしてください」

「うん、無理」

 …………。

 爽やかな笑顔で無理って言われちゃいました。貴女はジッとできない小さな子供ですか。

 こうなったら無視の一点張りだ。何も反応しなくなったらそのうち飽きるでしょ。

 ……ほら、アイスをうるさく食べてたけど、疲れたのか普通に食べ始めた。

 そしてついにはボクが構ってくれないから暇になって携帯電話をいじり始めた。

 ふう、勝った……!

 ようやく手に入れた静かな空間。これで落ち着いて勉強できる。

 でも、それはほんの一時のことでした……。


 ピンポーン。


 インターホンが鳴り響いた。誰か来たらしい。

「開いてるから入っていいわよ〜!」

 ん? モモグリさんが誰かを呼んだのかな?

 でもモモグリさんが呼ぶような人って……。


 シオダさん……?


 ――逃げるんだクロウ!

 ボクの脳内に危険信号が走る。

 勉強道具をほったらかしにし、急いで自分の寝床へ飛び込む。

 するとモモグリさんがやって来た。

「どうしたのよクロウ君。勉強やってたんじゃないの?」

「いや、その……今日は寝るよッ!」

「ふうん、まあいいけど。じゃあ勉強道具は私が適当に片付けておくからね」

 あれっ、わりとあっさり引き下がった。それに片付けまでしてくれるなんて、どういう風の吹き回し?

 モモグリさんが立ち去り、遠くで誰かと会話しているのを聞いてみた。

『クロウ君寝るんだってさ』

『こんなに早い時間から寝るなんて偉いな』

 ……お隣のサワヤさんの声だ。

 あれっ、シオダさんを呼んだんじゃないの?

『リファちゃんはスイカ好き?』

『は、はいっ。縁側で種を吐いたりして……』

『マホーツ界のお宅にも縁側なんてあるの?』

 リファもいる……?

 えっ、なんでなんで?

『いやあ、それにしても悪いわねえ和夫。仕事帰りにスイカを買ってきてもらっちゃって』

『気にすんなって。こういうのはみんなで食べるとより美味しくなるだろ? それにしても残念だなぁクロウの奴、寝ちまったなんて』

『ついさっきまで生真面目に勉強なんかしてたのよ。だから息抜きにと思ってスイカを買ってきてもらったんだけどねえ』

『クー君とスイカ食べたかったなあ……』

 …………。

 ちょっ……ボクもスイカ食べますッ!

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