第20話:ボクがここに居る理由
ふと思った。
なんでモモグリさんはボクを引き取ってくれたんだろう、と。
普通ならさ、もっとこう……
「魔法使いなんているわけないじゃないですか! 帰ってください!」みたいな展開になっている筈だよ?
なのにモモグリさんは近所の子供を家に招き入れる感じであっさりと引き取ってくれた。
なんでだろう……?
ハッ、もしかしてボクが今は亡き弟さんに似ているから情が移って引き取ってくれたとか……!
……いや、弟を下僕のように扱う姉なんかいないか……。
ハッ、もしかして一人暮らしは寂しいからペットの代わりとして……!
……って人間をペットとして扱うなんてどういう考えの持ち主だ。モモグリさんに限ってそれはないな。
ハッ、もしかしていつの日かボクをシオダさんに売るために引き取ってみたとか……!
……いや、だったらとっくに売られているか。
これはモモグリさんに直接聞いたほうが早いね。
ボクはテレビを見ながらマシュマロを頬張るモモグリさんに話しかけようとしたが……、
サグラダ・ファミリアッ!
という謎の着信音が鳴り響いた。
モモグリさんは電話に出た。
「あら紺ちゃん、どうしたの?」
あ、相手はシオダさんらしい……。
「うんうん、新しいバッグを買った? よかったわねえ」
わりと普通の話題だ。
「えっ、私はバッグなんていらないよ。というか既に持ってるし、サンドバッグ」
うん、明らかに違う種類のバッグだね。っていうかサンドバッグなんてこの家にあったっけ?
「…………」
み……見てる! モモグリさんがボクを見てる! え、ちょっ、まさかボクがサンドバッグなのッ?
「ああ、うん、クロウ君? クロウ君なら相変わらず小憎たらしいわよ。うん、うんうん、あ〜はいはい前方後円墳ね」
えっ、なんでボクの話題から前方後円墳にッ? まったく関連性はないけども!
「クロウ君が欲しい? あはは、それならいつでも売ってあげるわよ〜!」
……ッ!
まさか、まさかそんなことが……。
ボクはシオダさんに売られるために引き取られたのか……!
そっか、やっぱりそうだったんだ……。さすがにちょっとショックだな……。
「なんてね、ウソウソ。クロウ君はあげられないな」
……えっ?
「クロウ君は私の下僕だ」
どっちにしろ酷いッ!
モモグリさんは電話を切った。
「さて……下僕よ、茶でも入れてきなさい」
「ボクは下僕じゃないよ!」
「下僕、さっさとしろ」
モモグリさんの気分は完全に魔王だ。そしてボクは無理矢理働かされる手下。ああ……。
「魔王様、ウーロン茶でいいですか?」
「ぶっ飛ばすわよー?」
「ご、ごめんなさい!」
つい魔王様って言っちゃったよ。一歩間違えてたら完全にやられたよ、危ない危ない。
まお……モモグリさんにお茶を持っていった時、どうしてボクを引き取ってくれたのかを聞いてみることにした。
「クロウ君をあっさり引き取った理由? そんなの簡単よ」
「ど……どんな理由?」
「雑用として使えそうだったから」
…………。
結局はその結論に達するわけなんだね。ハア……。