第16話:沢屋のお宅に女の子
今モモグリさんは仕事でいないので一人で留守番です。
お昼にカップラーメンを食べながらテレビを見ていたら隣人のサワヤさんがやって来ました。
「ようクロウ。……桃栗がいないな?」
「仕事ですよ。今日は早めに帰ってくるって言ってたけど……」
「いや、桃栗じゃなくてお前に用があるんだ。ちょっと俺の部屋まで来てくれ」
「えっ、ちょっと……!」
そして無理矢理サワヤさんの部屋まで連れられました。
さすが男性の部屋、簡素だ。スポーツのインストラクターをやっているだけあって、スポーツ誌や女の子も転がっている。
……ん?
女の子……?
何故に女の子が!
「クロウ、そこで寝てる女の子なんだけどさ、ちょっとおかしいんだよね」
可愛い寝顔。
でもボクには見覚えがあるような顔だ……。
「自分のことを魔女だって言い張るんだよ」
魔女だって?
ま、まさか……。
「でさ、居候させてくれって泣きながら土下座で頼み込むからよ、ついついOKしちまったんだけどさ……実際ワケわからなくて困ってるんだよね。で、魔法使いのお前なら何か知ってるかなあと思って呼んだわけ」
なるほどね、だから魔法使いのボクを……。
――あれ?
確かボク、サワヤさんには魔法使いの話は一切してないけど、なんで知ってるの……?
「だってお前、魔法使いハットを被ってるじゃんか」
そんな理由で分かっちゃったのッ? この帽子は単なるお気に入りだよ! だったらこの人は魔法使いのコスプレをしている人を見たら、その人のことを本物の魔法使いだと認識しちゃうの? なんかスゴいよ!
……まあ、ボクが本物の魔法使いでよかったね。他の人に言ったら痛い目で見られるからね。
さて、それはそうとこの女の子、話からするとボクと同じ学校の子らしいけど……あまり記憶にないんだよなあ。どこかで見た気はするんだけどなあ。
「サワヤさん、この女の子の名前は?」
「えーと、確かリファって名乗ってたな」
リファ。
その名前を聞いた瞬間、あやふやだった記憶が鮮明に蘇った。
この子は入学してから五年間ずっと同じクラスだった。
でもお互いに会話をすることは少なく、クラス分けで別々になってからはほとんど顔すら見なくなっていた。
なんてことない、ただの元クラスメートだ。
確か『泣き虫リファ』って呼ばれてたけど、そこは相変わらずのようだ。
と、リファが目を覚ました。
「よう、起きたか。さんざん泣いたら寝ちゃうんだもんな」
サワヤさんが言った。
リファはすいませんと謝り、そしてボクの存在に気がついた。
「クー君……?」
……そうだ。リファは、リファだけはボクのことをクー君って呼んでいたんだ。
懐かしいな。
「リファ、久しぶりだね。四年ぶり……だっけ?」
「私のこと、覚えてたの? あ、ありがとう……」
本当は忘れてたなんて言えないね。
「じゃあサワヤさん、ボクは帰ります。学校のこととか詳しい話はリファから聞いてください」
「オッケー。不審者じゃないって分かっただけでも助かったよ。ありがとな」
「いえいえ」
ボクが帰ろうと思ったら、リファに呼び止められた。
「クー君。あの……」
「なに?」
「また……会える?」
「うん。だってすぐ横に住んでるし」
「えっ」
「じゃあまたね」
ふう……。
リファか。本当に懐かしい。
他のみんなはどうしてるかな。きっとモモグリさんとは比べものにならないほど普通の家で暮らしているんだろうな……。