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第13話:隣のお兄さん

「おい、そこの魔法使いハットの少年」

 こんにちは、クロウです。

 今買いパシリから帰ってきて玄関の扉を開けようとした瞬間、ボクは見知らぬ爽やか系のかっこいいお兄さんに声をかけられました。

「なんですか?」

「お前、そこに住んでる奴の家族か何かか? 最近よく見かけるけど」

「違いますよ。ただの居候です」

「だよな。お前金髪だしけっこう美形だし、それにあいつに似てない!」

「は、はあ……。じゃあボクはこれで――」

「ああ、ちょい待て。これ分けてやるよ」

 そしてお兄さんからカカオが99%含まれているチョコレートをもらいました。

「えっと……?」

「じゃ、桃栗によろしく言っといて」

 そう言うとお兄さんは隣の部屋へ入っていきました。どうやら隣人さんみたいです。

 『沢屋和夫さわやかずお』。表札に書いてありました。


「和夫に会ったって? で、このチョコレートをもらった?」

 モモグリさんはカカオ99%を握り拳でグチャグチャに潰しています。ココアに混ぜて飲むつもりらしいです。

「嫌がらせかしら。カカオが99%なだけあってすごく美味しくないの、これ。だから何かに混ぜるしかないよね」

「サワヤさんってなかなかかっこいいと思うよ。モモグリさん、サワヤさんと付き合えばいいのに」

「やーよ。だってタイプじゃないんだもん」

 モモグリさんはカカオ99%の上からシュガーを二袋ぶっかけています。念には念を入れて甘くしているらしいです。

「そんなに和夫がかっこいいと思うなら、クロウ君が付き合えばいいでしょ。意外とお似合いかもよ〜」

「やだよ。ボクは異性と付き合いたい」

「ふぅん……。クラスメートに好きな女の子でもいるのかな?」

「いないよー!」

「照れるな照れるな。お姉さんはいつでもキミの味方だからねっ」

 いらないよ。逆に不安だよ。

 そしてモモグリさんはポーションミルクをさらに三個くらい入れていた。

「ハッ! まさかクロウ君……。わ、私のことが好きなんじゃないでしょうねっ!」

 何故ッ! そんなこと一ミリも、一ヨクトも思ってないよ! あ、ヨクトってのは十のマイナス二十四乗のことね。

「まあその気持ち、痛いほどよくわかるよ。なにせ麗しき美女である私と同棲してるんだもんね。そりゃあ思春期の男の子の性欲を駆り立てるわけよね」

 駆り立ててませんから。妄想はやめてください。今のモモグリさんはまるでシオダのお姉さんみたいです。

「ところでサワヤさんって何をしてる人なの?」

「ん? 確か……スポーツのインストラクターだったかな。この近くのスポーツジムで教えてるって言ってた気がする。近所のおばさん達曰わく、なかなか教えるのが上手くて、それでいてかっこいいって評判らしいけど……」


 ピンポーン。


 おや、誰か来たみたいだ。

「クロウ君。私の代わりに出て」

「なんでよ」

「面倒だから」

「…………」

 反論するとまたビンタされるので嫌々玄関へ向かいました。

「おっ、魔法使いハットの少年! 桃栗はいる?」

 サワヤさんでした。片手にはクーラーボックスを持っています。

「それは?」

「ああ、『ハタハタ』だよ」

「『ハタハタ』……ってなに?」

「魚だよ。秋田の田舎の両親がたくさん送ってきたからさ、桃栗と酒を飲みながら食べようかなあと思って。で、桃栗はいるか?」

「うん、いるよ」

「そんじゃあ邪魔するわ」

 サワヤさんは鼻歌を歌いながら部屋に入っていきました。モモグリさんの

「か、和夫!」

という驚きの声が聞こえます。やっぱり了承を得てから招き入れるべきだったな。


 でも十分後には仲良く『ハタハタ』を食べていました。

「和夫ぁ、いいモン持ってきてくれたじゃないの! あ〜美味しい!」

「まだたくさんあるからさ、どんどん食えよ」

 ボクも『ハタハタ』を食べてみたけれど、独特の味がしてあまり好きになれなかった。特に卵はネトネトとたんみたいな食感がして嫌だった。

 ……でも、まあ、好きな人にはたまらない魚なんだろう。現にこうしてモモグリさんとサワヤさんは美味しそうに食べているし。

「あ、桃栗。そのうち時間空いてる? 新潟にスキーでもしに行かねえか?」

「スキー? あ〜、私最後にやったの高校一年の時だなぁ。懐かしいわぁ。でもあんたの予定こそ大丈夫なの?」

「なんとかなるから大丈夫。なあ、行こうぜ。……ほら、クロウだっけ? クロウもスキーやりたいだろ?」

「へっ? ま、まあ……」

 本当はスキーってあまり好きじゃないんだよね。ボク、こういう滑る系のスポーツは苦手なんだ。だけどなんとなくサワヤさんに話を合わせてみた。だってすごくスキーをやりたそうだから。

「ん〜、せっかくだけど遠慮しとく。また今度誘って」

「そっか。ま、仕方ないよな。それよりもっと食おうぜ」

 顔は笑っているけどどこか寂しそうに見えた。本当にスキーをやりたかったんだね。


 『ハタハタ』を食べ尽くしてお酒も飲んだ後、サワヤさんは自分の部屋へ帰りました。

「いやぁ美味しかった。クロウ君も食べればよかったのに」

「だからボクには合わない味だったんだよ。ところでモモグリさん。なんでスキーに行かなかったの?」

「だって今はやる気になれなかったんだもん。またいつか連れて行ってもらうわよ。くふぅ! 眠くなってきちゃったな……」

 モモグリさんは軽くノビをした後、そのまま寝てしまいました。このままだと寒くて風邪をひいちゃうよ。

 でも起こすと何か言われそうだから毛布をかけてあげました。

「…………」

 さてと。ボクは少し宿題をやってから寝よう。

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