第10話:クロウ、携帯電話を買う
ある日フリージアちゃんはマホーツ界へと帰りました。私にならクロウ君を任せられると安心したようです。
「どこが安心できるんだろう。毎日ボクにビンタをしてるのヒギャッ!」
またいつか遊びに来るそうです。またね、フリージアちゃん。
さて、私とクロウ君は携帯ショップにやって来ました。クロウ君に携帯電話を買ってあげるためです。もしもの時のために通信手段は持っていた方がいいでしょ。やだぁ、私ったら優しい〜! んっ、キモいって? ふふっ、既に自覚済み!
ソコモにヘイユーにソフトパンク……いろいろあるわね。あ、ちなみにこれは携帯の会社の名前ね。私はヘイユーにしてるのよね〜。
「クロウ君。どれにする? 言っておくけど高いやつにしたら大根で殴り殺すからね」
「モモグリさんなら本気で実行しそうで怖い!」
ふふっ、クロウ君たら無難に0円の古い機種を眺めてる。別に数千円ぐらいなら出すのにねぇ。
「決まった?」
「ん〜、これかな……」
クロウ君が選んだのはヘイユーのちょっと古い機種。色はシルバーで数千円の物。まあいいんじゃないかな。
……契約完了。クロウ君は嬉しそうに携帯電話を握ってます。アドレスはまだ私のしか入れてません。
クロウ君のメールアドレスは『momoguri.beautiful-woman@tzweb.ne.jp』です。私が決めてあげました。
(※勿論実際にメールは送れません)
そういえばクロウ君って友達はどうしたんだろう? クロウ君と同じように日本のどこかにいる筈だよね。
……まっ、いいか。
「クロウ君。私以外の人のアドレス知りたい?」
「うん」
「そうかそうか。じゃあ送ってあげよう。あと電話番号も」
クロウ君はとても喜んでいます。この幸せな気分がいつまで続くことやら……。
「これ、誰のアドレス?」
「電話してみな。相手には私から了承を得ているから大丈夫」
早速電話をかけたようです。
トゥルルル……。
「もしもし、クロウですけどどちら様で――」
『キャークロウ君だ〜! 私超感激な――』
プツッ!
プー、プー……。
はい、紺ちゃんの連絡先でした。
「モモグリさん、これはヤバいって本当に。毎朝毎晩電話がかかってきそうじゃない」
「私もそう思う」
「真面目に言うけど、きっとノイローゼになって死んじゃうよ……」
「ご愁傷様」
クロウ君はチーンという効果音が聞こえそうなほど落ち込んでいます。
トゥルルル……。
「早速来たーっ!」
クロウ君は携帯を見ただけでビビってます。今にも泣きそうな顔をしてます。とりあえず代わりに私が出てあげました。
『ク・ロ・ウ・くぅ〜ん! 今夜はウチで食事でもいかが?』
「それじゃあ特上のお寿司でもおごってちょうだい」
『……あら、秋子なの。クロウ君を出しなさいよ。あのプリティーボイスが聞きたいの。毎朝毎晩聞きたいわぁ』
やっぱり。
「ほどほどにしなよ。クロウ君、ノイローゼになっちゃうから」
『わかってますよ〜だ。それにしても秋子、なんかクロウ君に対して優しいね』
「そう? 奴隷が使いモノにならなくなるのが嫌なだけなんだけどね」
クロウ君がギョッとしてる。軽い冗談だっての。
『クロウ君と一緒に買い物なんていいなぁ。だったら私も誘ってくれれば――』
プツッ!
プー、プー……。
「クロウ君。なんだったら着信拒否してもいいわよ」
「それは最後の手段にしておく」
その後は適当に映画を見たりレストランに行ったりして過ごしました。たまには普通にのんびりするのもいいね。
「今日のモモグリさんは優しいね」
「そうかな?」
「あまり暴力を振るわないし」
「そりゃあ外でビンタなんかしたら道行く男性達に『あの人は見た目は美人なのに、実は魔性の女なのか!』って勘違いされるじゃない」
「あ、そうなんだ……」
「私はいつだって『美人で可愛くて頼りになって愛おしくてずっと側にいてほしい彼女ランキング』の第一位に君臨していたいのよ」
(意味不明だよ……)
「さあさあ、そろそろ帰ろうか。急がないと『激闘! 殺意芽生える田中刑事のコロシアム〜近所の駄菓子屋巡り編〜』が始まっちゃうよ」
「刑事さんがコロシアムとかやっちゃダメでしょ。しかもサブタイトルがほのぼのしてるし」
トゥルルル……。
「モモグリさん、非通知だ。誰だろう?」
「さあ? 出てみたら?」
「うん。……もしもし?」
『クロウくーん! 今からそっちに行ってもいい?』
「シオダのお姉さんだーッ!」