第1話:突然の訪問者
築三十年のボロっちい木造のアパートで、名前は『よくもえ荘』。最悪なネーミング。そこのとある一室に私は住んでいます。
表札には『桃栗秋子』と書いてあります。私の名前。スーパーで働いている麗しき二十歳の美女です。
えっ、私ってうざい? ふふっ、大丈夫。もう知ってるから。
今日は仕事は休み。今、お昼のランチタイムとしてカップラーメンを食べているところです。う〜ん、美味! 『イタリアン味噌パスタ風焼きそば』だって。よくわからないけどなかなかやるわね、カップラ業界。
ピンポーン。
あらあら、この麗しき美女の私に客人ね。あいにく食事中だから華麗にシカトしましょ。
ピンポーン。
…………。
ピンポーンピンポーン。
ピンポーンピンポーンピッピンポーン。ピピピピピンポーン。ピンポッホォーン。
「はいどなた?」
やかましかったから、ついつい出ちゃった。うざいから早く帰ってもらわないとね。
宅配便かと思ったけど違った。おとぎ話に出てきそうな魔女の帽子を被った少年(推定十五歳)がゴルフクラブのアイアンを抱えながら立っていた。
ガラスのように透き通る蒼い瞳。外人さんみたいな金髪。そしてショタコンは放っておけないような綺麗に整った可愛い弟系って感じの顔。まあ私はショタコンじゃないけどね。
ところでこの子は私に何の用があるのかな? 魔法使いみたいな格好をしているから、もしかしてハロウィンのイベントとしてお菓子を貰いに来たのかな? あらやだぁ、ウチにはにぼしかきゅうりしかないのにぃ。っていうか、今クリスマスだし。
「ちょっと待ってね。今にぼしかきゅうりを持ってくるから」
「えっ? いや、その……いらないです……」
「あらま。もしかして納豆の方がよかった?」
「そういう問題じゃないです」
まったく、最近のガキンチョは贅沢ねぇ。その蒼い目はアレでしょ、カラーコンタクトでしょ。やあね〜! 髪も染めてるんでしょ? いやぁもうカッコつけちゃって、このこの〜! そのままでも十分モテる顔だっつうの!
「モモグリさん、これを……」
「ん、何かな? ……手紙?」
「読んでください」
はいはい、わかりましたよっと。随分と達筆な字ですこと。 なになに……?
――――――
桃栗秋子様へ。
最近めっきりと寒くなりましたね。いかがお過ごしでしょうか。こちらは家の周りに積もった雪を除雪するのが大変なほどの大雪です。
あ、申し遅れました。わたくし、マホーツ界魔法学校の校長ライトと申します。
早速ですが用件を。
そこにいます魔法学校の生徒クロウを一年ほど居候させていただけないでしょうか?
我がマホーツ界魔法学校では、卒業前に人間界で一年間過ごし、魔法の経験と人々との関わり合いを育む行事があります。そのため、生徒達には人間界の者と共に暮らしてもらいたいのです。人間界のことがわからない彼らに、色々なことを教えていただきたいのです。
勝手なお願いではありますが、どうか一年間クロウと一緒にいてあげてください。
――――――
魔法学校? ほほう、興味深い。っていうかそんなモノが存在してたなんて不思議。
さて、私の家にこのクロウ君を泊めてあげろって? う〜ん、悩むなぁ。だって食費がかかるだろうし。
しかし本当に勝手に決めたものね。どうやって私の住所を調べたんだろう? まあいいや。
「クロウ君、中に入りな。今お昼ご飯を食べてるからさ、キミも何か食べる?」
「えっ、居候させてくれるんですか?」
「うん」
「あはっ、ありがとうございます!」
ふふっ、こんなに喜んでくれるなんて。かーわいい!
……ただ、もちろんタダで泊めるわけないんだけどね。
「掃除、洗濯、料理など、家事全般はキミに任せるから」
「ええっ! ボク、一応宿題とかもあるんだけど……」
「知らない。家事やれ」
「まあ、お世話になる身だしな……。やらせていただきます……」
わかればヨシ!
私はクロウ君の頭の撫でてやると家の中に入れてあげた。
クロウ君にはビーフジャーキーをあげた。
「ボクはペットですか?」
って嘆いていたけど無視。いきなり押しかけてきて贅沢言ってんじゃないの。
でもそんな潤んだ瞳で見つめられると……。あーダメ。私の善良な心が揺らいでしまった。仕方なく生ハムにランクアップしてあげたわ。
でもそれはそれで文句を言ってきたから、さらにビンタにランクアップさせた。スッキリした。