《青砂の降る国》2
嘘だろう?
信じられない光景を目の当たりにした龍航は、そのまま窓から一歩二歩…と後退っていく。
"ドン!"
途中、背中が何かにぶつかった。
おそるおそる振り返ってみる。
「お目覚めですか?」
背丈は龍航より頭半分小さいと言ったところか。170cmが妥当だろう。珍しい濃い紫の髪は、肩より若干長めで、頭には白い帽子。それには、何やら厳かな装飾が施されていた。
服装も、とにかく凄かった。
袴なのか着物なのか…。昔、世界史か日本史の教科書で見た事ある様な服装だった。
「…あの…」
「はい?」
声も顔も、それなりに若かった。見た目から判断すれば、20代前半位かもしれない。
「病院の方…でしょうか」
「いえ?スンウですけど?」
は?
訳が分からない。
訳が分からない。
訳が分からない。
訳が分からない。
訳が分からない…
「あの…ここは秋葉原ですか?それとも、その様な催し物が近所で行われているのですか?」
「『その様な』と申しますと?」
「…コスチュームプレイ、と言うやつです」
以前、番組で取り上げられた話題の中の一つ。
テレビや漫画に出てくる人物の衣装を、そっくりそのまま作り着たりする事らしい。
最近では遊園地自らが主催し、コスチュームプレイヤー同士の交流をはかる事を目的とした催し物もあるらしい。
「『こすちうむぷれい』…?
ここは城内で、私はスンウです」
…ダメだ。
話が全く噛み合わない…。
そう確信した龍航は、この男との意思の疎通を諦めた。何を言っても無駄だろう。そう観念したら急に全身の力が抜け、疲労困憊のオーラが部屋中に漂い始めた。
夢であってほしい。
龍航は軽く自分の頬を両手で叩いてみた。
後に残ったのは鈍い痛みと、壊れたスピーカーの様に『スンウです』としか言わない男の姿だけだった。