《青砂の降る国》1
目を覚ますと、龍航はベッドの中にいた。
赤い絨毯に赤い壁紙、緑色のシーツとカーテン。
明らかにクリスマスカラーのそれらは、起きたばかりの龍航の目には少々キツい配色だった。
「趣味の悪い病室だな…」
それが、目覚めて一番始めに口にした言葉。
自分がスタジオで生放送中に倒れたのは覚えている。頭痛だったか、胸の痛みだったか。
とにかく凄まじい痛みの波が全身を襲ってきて、龍航はあっという間に飲み込まれてしまったのだ。
自分がこうなってしまった以上、明日からのニュースは誰が原稿を読むのだろう。
このままだと、おそらく降板確実だろう。
いや、それよりも打ち切りの方が先か。
とにかく意識が戻った事を看護師か医師に知らせたくて、龍航は枕元のナースコールに手を伸ばそうとした。
が、しかし。
「…あ?」
本来あるべきのナースコールがない。
そこで初めて龍航は、この病室の異変に気がついた。
医療機器も、テレビも、洗面台も、照明もない。
ベッド以外、この部屋には何もなかった。
巷で無駄を徹底的に省くシンプルスタイルが流行っている事は知っていたが、まさか病院にまでそれが浸透していたとは…。
「この病室の広さだとテレビ局の近くのF病院か…」
もしくは郊外のT病院か。どちらとも有名な高級感溢れる病院である。
だが、その予想はすぐに外れた。
「…馬?」
微かに耳に届くのは、何頭もの馬の嘶く声。そして、足並み揃えた行進の重低音。
ここは競馬場の近くなのか、はたまた自衛隊駐屯地の近くなのか。
龍航は急いで緑色のカーテンを開け、下を見下ろした。
「……は?」
眼下に広がるは、明らかに時代錯誤と言える鎧姿の集団だった。
西洋風の鋼鉄の鎧を身に纏った集団がざっと100人以上はいる。