プロローグ1〜世代交代のニュースキャスター、46歳井上龍航の始まりの話
東京に記録的な大雪が降ったのは、つい昨日の話。
降雪量は約3メートル弱。交通機関は全てマヒ。会社や学校も勿論全て閉鎖。
嘘みたいな話だが、この狭い東京で既に十何人か遭難しているらしい。
「嘘みたいだよなぁ」
龍航は一面の銀世界をテレビ局の4階から見渡す。高2の冬に行った修学旅行先、北海道をも彷彿とさせるその眺め。
「井上さんの地元じゃ滅多に見れないでしょ?こんな光景」
そう言って、プロデューサーの槙原が横からコーヒーを差し出した。
「あぁ」
ちなみに井上龍航の地元は、九州福岡県の平野部になる。
「井上さーん。スタジオお願いしまーす」
遠くからADの呼ぶ声がする。そろそろリハーサルが始まる時間だ。
朝8時の民放のニュースキャスター。放送開始から今年で17年目。最近社内からは番組打ち切りの話が出てきた。
『世代交代』、らしい。
「井上さん」
槙原がスタジオに向かう龍航の背中に叫んだ。
「フリーになるって話…本当ですか?」
龍航からの返事はない。その代わり、長年愛用のライターを渡した。
「それ、やるよ」
「え?」
龍航は来月で47歳になる。社内では冗談混じりなのか、それとも皮肉を込めてなのか『長老』と呼ばれている。
この場所では、既に限界があった。
そして、その限界の先を自分の眼で確かめたいと思った。
「世代交代、ってやつだな」
それが、龍航の答えだった。