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右近と左近  作者: 双鶴


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37/37

第37話 空だけが知っている(俯瞰視点・現代)

 静かに、時は流れていた。


 橘重友と桜和友――

 あの二人の高校生が忽然と姿を消してから、

 もう随分と年月が経っていた。


 警察の捜索はやがて縮小され、

 学校のざわめきも薄れ、

 家族の涙も少しずつ乾き、

 町には「神隠し」という噂だけが

 ひっそりと残った。


 だが、

 どれほど騒がれようと、

 世の中は非情なほどに“いつも通り”を続けていく。


 季節は巡り、

 人々は日々を生き、

 街の灯りは夜ごとに点り、

 誰もが少しずつ、二人のことを語らなくなっていった。


 ――だが、歴史だけは忘れなかった。


 


 重友が高山右近として生きた信仰は、

 今も日本とフィリピンで讃えられている。


 マニラの聖堂には、

 右近の名を刻んだ石棺があり、

 その上には祈りを捧げる人々が絶えない。


 日本でも、

 右近の生涯は“殉教者”として語られ、

 その信仰の強さは今も多くの人の心を打つ。


 そして――

 和友が太田左近として生きた信念は、

 今も“三大水攻め”の一つとして語り継がれている。


 紀州太田城の戦い。

 圧倒的な不利の中、

 最後まで武士としての矜持を貫いた左近の名は、

 歴史の中で静かに輝き続けている。


 だが――

 現代の伝承には、

 右近と左近の友情を示す逸話は一つも残っていない。


 文献にも、

 記録にも、

 語り草にも、

 その痕跡はない。


 まるで、

 二人が出会い、

 共に生き、

共に戦い、

 互いの魂を支え合ったという事実そのものが、

 歴史からそっと隠されたかのように。


 


 だが――

 空だけは知っている。


 重友が右近として祈り続けた空を。

 和友が左近として戦い抜いた空を。


 戦場の空も、

 祈りの空も、

 追放の空も、

 マニラの空も。


 すべての空が、

 二人の魂の軌跡を見ていた。


 そして現代の空もまた、

 あの日突然姿を消した二人の高校生のことを

 静かに見守り続けている。


 人々は忘れても、

 歴史が語らなくても、

 記録が残らなくても――


 天高く広がる空だけが、

 重友と和友の友情を、

 その生涯を、

 その魂の輝きを、

 確かに伝えている。


 空は今日も青く、

 どこまでも広がっている。


 まるで、

 二人の魂が今もその中を

 静かに歩き続けているかのように。


 そして――

 その歩みは、

 誰にも見えず、

 誰にも語られず、

 ただ空だけがそっと抱きしめている。


 物語は終わった。

 だが、

 二人の魂は終わらない。


 空の下で生きるすべての者の上に、

 今も静かに降り注いでいる。


 ――永遠に。


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