8.ひだまりの中で想うのは
マティンリ侯爵邸に来て、数週間が過ぎていた。
毎日はゆったりと、そして確実に過ぎていった。
あまり好きではない刺繍もしている。
今はアフタヌーンティーの時間で、ティアは邸の庭に居る。
イヴァンは仕事がもう少し片付いたら来る、と聞いている。
柔らかな日差しを浴びながらのお茶は、久しぶりだった。
母が生きていた頃は、よく近場でピクニックをしていた。
思い出の中は幸せな家族ばかり。誰もが別れなど予測していなかった。
ずっと変わらない、そして続くものだと信じていた。
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『ティア、誰でもね女の子はお姫様なのよ。』
「おひめさま?じゃあ、おうじさまがむかえにくるの?」
『ええ、あなただけの王子様がきっと。出会えば何度でも何度でも惹かれ合う人よ。』
「ひかれあう?」
『その人のことで胸がドキドキして、時々切なくなるの。』
「ドキドキ?せつない?」『そうよ。大切で、離れたくないと思うの。』
「それなら、トゥユリね!」
『トゥユリは女の子だわ。王子様は男の人だから…………。』
「?」
『まだ少し難しかったかしら?わたくしが言いたかったのは、』
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お母様が本当に言いたかったことは、何だったかしら?
一番大切なことが思い出せない。
ティーカップに口を付けたまま、考え込む時間を多く要した。
仕事を終わらせ、邸の庭へ向かった。
彼女と過ごす貴重な時間だった。
そこに着いた時のティアは思案顔で、動作が止まっている。イヴァンは声を掛けようか迷いながら、席につく。
そう言えば、庭でお茶をするのは初めてだな……。
提案したのは、彼女らしい。
「ティア?」
弾かれたように、彼女は顔を上げる。
「イヴァン様。お仕事終わったんですか?」
「………ああ。」
「私、お庭でのティータイムは数年ぶりです。」
ゆっくりと穏やかに。ティアの微笑みが咲いた。
遅くなりました(´⊃ω;`)
そして今回も短い……。
ほのぼのとした雰囲気が出せたでしょうか?
そこが不安材料です。
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