7.侯爵邸の図書室にて
ティアはイヴァンのほんの少し後ろを歩いていた。
大きな扉の前で一瞬立ち止まる。
「ここなんだが……。」
と告げられた。
微かな古めかしい音が聞こえて、扉が開く。
伴われた場所は日の光を呼びこむ大きな窓が一番に目に入ってくる。
それがとても印象的だった。
微かに鼻をくすぐったのは、紙の香り。
どこか懐かしいようなそんなもので。
「………ここは邸の図書室だ。好きに使っていい。」「………よろしいんですか?」
ティアは驚き、戸惑いながら問う。
「ああ。」
変わらずの短い応え。
「イヴァン様、ありがとうございます。」
ふと一瞬。
イヴァンの表情が柔らかいものになった。
初めて見たイヴァンの笑みだった。ティアも自然と、笑みが溢れる。
それがイヴァンの胸中を乱していることなど、知らずに。
「……仕事があるから、失礼する。」
「はい。…本当に、ありがとうございます。」
ティアはイヴァンが出て行くのを見送った。
本を一冊手に取り、居心地の良いソファーに腰を沈める。
物語は山の神と村娘のものだった。
その本のあるページに。
"いつかの僕でありますように。"
拙い文字での、切実な願い。
インクの指紋まで付いていて。
指紋から相当の幼さがわかって。
書いたのはきっと……イヴァン様だわ。
そう気づけば、どうして?という問いと、つと涙が溢れた。
父の愛に囲まれて、母の愛に囲まれていた自分は、何も憂いたりしなかった。する必要なんてなかった。
そんな幸せをイヴァン様は知らないのかもしれない………。
鋭い痛みを覚えた。
私は「いつかの貴方」の傍に居たい、です……。
人ではない神と村娘の恋。
人ではない悪魔と令嬢の恋。イヴァンは書斎にいた。
少し前に彼女を図書室に案内したところだった。
領地の収支についての手を止めて、思いだす。
ふと見た時の微笑。結った髪が揺れる。言葉を紡ぎだす唇。
いつの間にか、幸せのため息をつけば「早く婚約なさっては、いかがですか?」
アスキスの言葉にかたまった……。
お久しぶりです♪
読んで下さっている皆様。ありがとうございます\(^^)/
遅筆な自分がうらめしいです( ∩_;∩)
ティアはちょっと自覚したのか、してないのか?
微妙なラインです……。