5.過去の記憶と疼く傷
ほんの少しだけ、暴力的な表現があります。苦手な方はご注意ください。
また、イヴァン視点です。そして、短めですφ(..)
遅くなりました。
すみませんm(__)m
「お母様!止めてください!!」
ティーカップが割れる凄まじい音が響いた。
機嫌のよかった母の前に、イヴァンが現れた途端に母はヒステリーをおこした。
「近づかないで!どうして産まれてきたの!?あの男の子供なんて………!何故お前は悪魔族なの………!?」母はイヴァンの足元にティーポットを投げつけた。
「奥様!お止めになってくださいませ!!」
メイドの制止さえ、振り切っている。メイドは床に倒れてしまう。
ティーポットには、まだ熱い紅茶が入っていたらしく、飛び散った。
「熱ッ!!」
ズボンを通して、足にかかったことがわかった。
「やだよ…僕…………。」泣き出せば頬に痛みを感じ、首に力を込められる…………。
最後の一瞬。見たのは、歪んだ母の顔だった。
「…………………!」
息が荒くなりながら、勢いよく体を起こした。息を整えようと、呼吸を繰り返すがしばらくの時間を要した。イヴァンは深くため息をついた。
どうして今になって、過去の記憶が………。
ふらつきながら、立ち上がった。
「どうぞ、水をお持ちしました。」
ああ、返事をしながら口に運んだ。
喉が潤うのを感じ、ほっ と息をつく。
「イヴァン様、普段はまだお休みになっている時間です。………もう一度。」
「……仕事があるだろう、終わらせる。」
「昨日と同じことをおっしゃっていますが。」
思い出しながら、苦笑する。
「彼女の身の回りのものを選びに行く。」
「まだ街の店は開いていませんし、これ以上何をお贈りなさるのですか。」
手袋、帽子、靴、ドレス、ハンドバッグ、身の回りの必要性を感じる物などは、思いつく限り贈っている。それらは、全て自分で選んでいた。
……………彼女は知らないだろうが。
「ドレスは何着あってもいいだろう。」
「イヴァン様、メイド頭より衣装室が夏のドレスだけで溢れかえっているそうです。」
……………………。
イヴァンは黙り込む。
「お出掛けをなさったらいかがですか?」
「…………今日は、彼女をこの邸の図書室に案内する予定だ。」
「承知いたしました。」
アスキスの用意した衣服に、イヴァンは着替えた。
「どちらに?」
「図書室だ。」
まだ日の光は、一筋も入ってこなかった。
暗闇の中でもイヴァンは難なく足を進められた。
母に憎まれた種族だったから。




