19、とある邸のある部屋で
遠くから響く馬車の音がティアの鼓動を速めた。窓の傍で長い間待ち続けた人が来たのだろう。
昨日初めて知ったこと、それに付随する様々な事柄が今日きっと分かるはずだ。
すらりと背が高いイヴァンがポーチに向かうのを確認する。
「いらしたみたいね。」
サラが呟き、先程初めて会ったサラの婚約者であるウィリアム・ストリーブル伯爵がクスリと笑う。
「待ちきれないようだね。」
ティアはむっとして、顔をそむける。何がおかしいのか分からないのに、ストリーブル伯爵は肩を震わせる。
「サラ様、ティア様。マティンリ侯爵をご案内いたしました。」
ドアが開く。
「始めようか。」
遠くで教会の鐘が鳴っている。イヴァンがティアの隣に腰かけた。
「まずは、ストリーブル伯爵。私は貴方を疑っていた。このことを謝罪をしたい。」
「そんなことはお互い様だよ。むしろ、それくらいしないとただのお人好しだしね。」
二人の悪魔が互いを見やる。交わる視線がふと揺らいだ。
「今の状況はどうなっているのかしら。」
ティアはサラをみつめる。
「呪いについてはサラのが詳しいだろう。教えてくれるよね。」
そうね、とサラが呟き淡々と話し始める。
「精霊と契約して教えてもらったのだけど。呪いを完成させる為に、コウヌギの根本に埋めるから、コウヌギの木の場所を探してもらったの。」
簡単だったわ、とサラは呟くように息をはく。
「……トゥサルト教会よ。」
今いるこの邸からほど近い場所にある、この国の神の家。そこは白亜の建物の周囲が鬱蒼とした木々に覆われている、多くの人が訪れる有名な場所である。
「ただ、一つ困ったことがあるの。ティア、トゥサルト教会の見取り図を描くようにたのんだでしょう?」
姉に言われ、ティアは今日の朝に頼まれたものを出す。
「トゥサルト教会の敷地内にコウヌギの木が対角線上に二本あって、どちらの木の根本に埋められているのかが分からないのよ。」
「手分けすればいいんじゃないかな。」
婚約者の言葉に姉は憮然とした態度で、言葉を返す。
「相手がどれぐらいの能力を持っていて、どれほどの人数がいるかはっきりしないわ。」
「確かに、実際に動ける人数は限られている。ただ、時間もない。明日の行動はどうしても慌ただしくなる。」
イヴァンがサラの言葉に同意して、更に言葉を続ける。
「恐らく悪魔族による結界が張られているだろう。今から確かめることは出来そうにない。クサカガリが自生している場所も考慮しなければ。」
「教会の中にはクサカガリが生えていないのよ。ただ、周囲には密集している場所もあるけれど…。呪いの解き方を妨害するならこちら側だと思うけれどやっぱり確信が持てないのよね………。」
「精霊の協力は無理そうなのかな、サラ。」
「精霊たちは中立だもの。コウヌギの木自体を嫌っていて近づこうとしないから…。」
ティアはこれまでの会話を反芻しながら、ふと疑問を口にした。
「呪いのコウヌギの木と普通のコウヌギの木は、精霊たちにとってどちらが近づきたくないのかしら。」
「なるほど、見えてきた。」
イヴァンが呟く。つまりはこういうことだろうと説明を始める。三人が耳を傾ける。
最後にはそこにいる全員がうなづいた。
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