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悪魔の涙  作者: 紫聖
18/19

18.隠したものと暴かれたもの

「落ち着いたか、ティア?」

マティンリ邸の一室に三人は居た。トゥユリの術はイヴァンが解き、彼女はティアの後ろに控えている。

その視線はイヴァンに対して鋭利なものだった。

暖炉の薪から、がたん、と大きな音が響く。

「つらいことを強いているのは解っているが、……話してくれ。」

ティアは俯いたまま、小さな声で答えた。

「……お父様が、あと、七日で、お姉様の誰かが協力している、とあの人が。」

「…そうか。」

イヴァンの手が伸ばされ、ティアの目元をそっと拭う。

「あと、これをサラお姉様に渡すように、と言われたのですが、私はどうしたら?」

ティアが取りだした物をイヴァンは見つめる。

毒々しく、好ましくないのがはっきりと判った。そしてそれが何の木の実であるかも。

「何故、ここに来たんだ?父上に付いていた方が良いだろう?」

「……沢山、伝えたいことがあります。知りたいこともあります。お父様がご病気ではなくて、呪いだと聞いて。」

何故、お父様が。その思いは姉から聞いてからずっと消えない。

「知らないままの方が良い。」

二人の視線がかち合う。

「何故ですか……?」

「絶対に父上は助ける。誓う。」

薄暗闇の中、イヴァンの瞳に赤い光が宿る。

「――です。」

「ティア?」

「嫌です!待つのは嫌、何も知らされないままただ生活することも嫌、です。」

ずっと何も出来ない自分にどれ程歯痒い思いをしてきたか。

何の力も無くても、出来ることがあるはず、きっと見つかる。

「知ればまた今日のように、いや、今日以上に怖い思いをすることになる。狙われる可能性だってある。」

現にティアの姉、サラは狙われてしまった。今回がそうだ。

「もう私達狙われています!私は怖いです、今日も怖かったです。でも、私のお父様なのに…。」

大きくイヴァンはため息をつく。ティアは不安を覚え、黙り込む。

「ティアは精霊の存在を感じることがあるか?」

唐突過ぎたかもしれない、とイヴァンは考えた。

「精霊は主に植物などに宿る。ただ、ある木だけ寄り付かない。その木の実がこれだ。」

木の実をテーブルに置く。コツン、と音が響く。

「この木の実の名は"コウヌギ"だ。これを持つ人間を精霊達は信用しなくなる。あの男の狙いはそれだったんだろう。」

「どうして、サラお姉様に?」

「推測だが、稀に精霊をはっきりと感じることが出来、彼らと契約を交わす人間がいる。きっと姉君はそんな"精霊士"の一人なんだろう。精霊士がコウヌギの木の実に触れれば、契約をした精霊は怒り狂うはずだ。」

そして、襲いかかる。その言葉をイヴァンはのみ込む。彼らは善き隣人であると共に、危険な敵となる可能性も持ち合わせている。

「解ったこともある。精霊は呪いの類いは嫌う。明日、ティアと姉君、姉君の婚約者の四人で会おう。時間が無い。協力しなければ。」

「お父様の呪いは、どうするのですか?お姉様の婚約者をご存知なのですか?」

「明日、情報を共有するつもりだ。父上は、必ず助ける。姉君の婚約者は悪魔族だ。」

「明日ですね。お姉様のこと……知りませんでした。」

気落ちしながら俯くティアの髪をイヴァンは手で鋤く。

「今日は何故、此処に来たんだ?」

「お礼が言いたくて。お父様の為に尽力してくれて、ありがとうございます。」

何も言わず、じっと見つめられるとティアはどうすれば良いのか分からない。

「今日も助けてもらって。私、イヴァン様に助けられてばかりですね。」

ティアが小さく笑う。

もう一つ伝えなければいけないことがある。

ここに来る前は、あんなにも溢れそうだったのに。

今は、怖い。

「…ティア?」

ティアは頭を振って、何でもありませんと答える。そんな様子をイヴァンは切なげに見つめる。

「送ろう。」

立ち上がり、手を伸ばす。その手をトゥユリが睨む。

ティアが手を取ると、ますますひどくなる。



「侍女殿。…………“花”の香りがする。誰にその身を捧げた?」


その後も続く静寂。誰も破ろうとはしない。

息をするのさえためらうほどだ。

ティアは再び、知らされないという不安に駆られたのだった。




遅くなりました、申し訳ありません。

半分ほどできていたものに加筆致しました。

遅過ぎますが。

じれじれにお付き合い下さいませ。

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