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悪魔の涙  作者: 紫聖
17/19

17.告げられた真実

遅くなりました、申し訳ありません(>_<。)

おかしい、とティアは感じた。馬車は進んでいるのに着く気配が全く無い。

外の門に入って暫く馬車が走れば、中の門が見えるはずなのだ。終には揺れていた馬車がそこに根付いた。

「……ティア様、御者に聞いて参ります。」

トゥユリがそう言って、外へ向かい、ティアはその背中を見つめた。少しだけ窓のカーテンを指先で玩ぶ。

ティアは自分が緊張していることに気付き、驚いた。

緊張が増せば、不安が生まれた。それと同時に浮き足立つような気分にもなる。風の音が耳に響いてきて、そっと目を閉じる。

「ティア様。」

「御者は何と言っていたの、トゥユリ?」

「……全く同じところを廻っているようだ、と。けれども、道は一本道らしいのですが…。」

「そう、なの。」

「悪魔による術だと私は思います。人を嫌う悪魔がよくする方法だと聞いたことがあります。」

自身がイヴァンにとって他の人と何も変わらないことにショックを受けていた。

拒絶でもあるのだ。

「トゥユリ、御者に伝えて。フェアリット家の邸に帰るように、と。」

「しかし、ティア様……。」

「お願い、早くして。お願い!」

トゥユリが口をつぐみ、再び御者のもとへと向かう。

術によって自分自身が拒絶されている様で、会うことがだんだんと怖い、と感じていた。

もし、イヴァンに拒絶されてしまえば、きっと否、絶対に立ち直れない。

そのことがティアの決心したはずの心を後ろ向きにさせるのだ。

トゥユリが乗り込み、再び滑らかに馬車が動き始める。

マティンリ邸の方を見たつもりだったが、影さえもない。それも術のせいだろう。

あと数ピラードで外の門を通ろうとした時。

馬車が急停車し、ティアは声を上げかけた。

「大丈夫!?」

トゥユリも慌てた様子で声をかける。

「あっ、……どこか怪我などはしてませんか?」

「平気よ。どうして急に停まったのかしら?」

「分かりませ、」

「私が停めさせていただきましたよ。」

見知らぬ男だった。笑みを浮かべているはずなのに、黒い感情が見え隠れする。トゥユリがティアの前に立ちはだかる。

「何者ですか!?淑女の馬車に乗り込んでくるなど、言語道断です!降りて下さいませ!」

「少しその口を閉じといて下さいよ。」

そう言って男が手を翳した。その途端にトゥユリが石のように硬く、冷たくなってしまう。

「いや、どうして!トゥユリ?」

彼女の腕を掴むと、その冷たさにぞくり、と震える。

「トゥユリを元に戻して下さい!お願いです、お願いですから………。」

「貴女にお話があるんですよ。」

「私にですか?」

「ええ。終わればすぐに彼女への術を解きますから。」

「約束して頂けますか?」

「貴女次第ですよ。」

微妙に論点をずらされて、不安が顔を出す。

「これを貴女の一つ歳上の姉君に渡して下さい。」

男が取り出したのは、木の実だった。ごつごつして、斑に毛が生えているそれは独特の香りを放っていた。

「何の実ですか?」

「貴女は何処まで知っているのですか?それとも、知らない振りをしているんですか?これは植物の実ですよ。只の。」

明らかに含まれている悪意。それを感じて、ティアは震える。

「あと七日です。」

「何がですか?」

「貴女の父上がこの世から居なくなられるのがですよ。」

「嘘…、そんなこと……って。」

「嘘では無いですよ。我が主はその日を心待ちにしておりますし。肉体的な苦痛よりも、精神的な苦痛の方が、貴女達を痛めつける。」

ティアの耳にそれらの言葉は遠く響く。溢れる涙は視界を霞ませていった。

「どうして……、お、父様に呪いを?」

「人間の苦痛を集めるためですよ。」

頭をふるティアを見て、男は冷笑を浮かべる。

「貴女の父上に呪いをかけるのに協力したのは、貴女の姉君のうち一人ですよ?絶望して下さい、ほら、もっと人を信じられなくなって下さ」

絶句するティアの耳元で、囁く声が途絶えた。






イヴァンは感情の赴くままに、男の胸ぐらを掴み、殴りつけた。

倒れ込む男に剣を抜きながら、近づく。

「貴様、術者の手の者か。残念だったな、此処で事を起こしたことが間違いだ。」

「予想の範疇ですから。私を殺せば、有能な従者も戻っては来ませんよ?」

「ティアに何を話した?」

「直接聞いたらどうです?」

その時、空気が震えた。低く鈍い音と共に。

左腿から焼けるような痛みを感じ、押さえると手が紅く濡れた。硝煙の臭いが辺りに立ち込める。

「人間の道具も役立つものです。」

男が手にするのは、銀のピストル。

思わず膝を折ってしまうイヴァンの目の前から男は門の外に出ると、あっという間に姿を消した。

敵を逃してしまった自分自身に苛立ちながら、タイを外し左腿を縛る。

集中力を保ってはいるものの、一歩が重い。イヴァンはなんとかフェアリット家の馬車に向かった。

中にいたのは放心しているようで、ぼんやりとしているティアがいた。その瞳からは絶えず、涙が溢れている。

その横にいる女性は、術に因って石と化してしまっている彼女の侍女に違いない。

「ティア…。」

名を呼びながら、華奢な身体を抱き寄せる。

ティアの手がイヴァンの上着をきつく握りしめた。


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