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悪魔の涙  作者: 紫聖
16/19

16.想いの行き先

ふと物思いに沈む。紅茶を運ぶ手も止まっており、ノック音も聞こえていなかった。

「ティア?ぼんやりしているわね、どうしたの?」

一つ年上の姉、サラだった。

「サラお姉様……!あの、いつから?」

「ついさっきよ?」

ノックしても気づかないんだもの、姉が呟く。

「ご病気がどんどん進行しているって聞いたの。」

「あなたは何も聞いていないのね?」

その言葉にティアは疑問を持った眼差しを向ける。

その様子に姉がため息を小さくつく。

きっと伝えることは侯爵にとっては、本意でないに違いない。

もう子供ではない。まだ大人でもないけれど。知り、全てを受けとめることだって出来る筈だ。

「何も……?サラお姉様、どういうことなの、何があるの?」

「落ち着いて聞いてちょうだい、ティア。お父様のご病気は悪魔に因る“青血呪”という呪い。」

ティアの瞳に驚愕の色が浮かぶ。

「私は身近な処にいる悪魔族に注意すべきだと思ったわ。」

もしかして、イヴァン様が、呪いを?でも、どうして?何の為に?

「ティア、あなたは想い人さえ疑うの?」

「………。」

「言ったでしょう?『思った』って。あなたをこの邸に帰らせた時点でその疑いは晴れているわ。」

でも、どうしても不信感を拭えない。

「ウィリアムが言っていたのだけれど、マティンリ侯爵は呪いを解くために奔走しているって。」

「でも悪魔族と人間は相容れない、聞いたもの。」

「確かに悪魔族と人間は違う。でも、その差は小さいのよ。魔力持ち、丈夫な身体を持っている。感情だって持ち合わせているし、理性も持ち合わせているわ。人を愛することも出来るのよ。そうでなくちゃ、私は何を信じて彼を愛したというの?あなたは何を信じて恋をしたの?」

確かに自分の好きな人を疑うのは、自分を信じていないことと相違ない。

ティアは自身を恥じ、うつむいた。

「お父様の病状は急激に悪くなることなんてないわ。少しの間出掛けても平気よ?」

「でも、………。」

「お父様の為に動いて頂いているし、…………本当は会いたいのでしょう?」

お父様のことがあって、知らない振りをして、考えない振りをして。

本心ではずっとあのままでいいの?っていう後悔が消えなくて。約束がなければ、なんて只の言い訳。

会いに行くことが出来る距離のうちに、行かなくちゃ。

「私、行ってきます……!サラお姉様ありがとうございます!」

ティアは立ち上がり、馬車の用意をするようにメイドに頼む。トゥユリが扉を開け、ティアが部屋を出る。トゥユリが閉める直前。

「ティアは“マティンリ侯爵”に会いに行くのよ、“悪魔”ではないわ。」

「存じております、サラ様。」

しっかりした声。それには力が込もっている。

扉が閉まる音がやけに大きく聞こえた。








それより二時間ほど前にイヴァンはある邸に居た。

この間の公爵の邸で開かれたピアノ演奏会に来たためだった。

会場は和やかな雰囲気に包まれ、談笑する声が彼方此方であがっている。

「やぁ!マティンリ侯爵!」

陽気で馴れ馴れしいとさえ感じる声の主は、軽口伯爵ことストリーブル伯爵だった。以前見かけた時と何ら変わった様子はない。此方に対する敵意はない。これが演技ならば、相当の切れ者だ。

「ストリーブル伯爵、久しぶりですね。」

「堅くならないでくれよ。お義兄さんと呼んでくれ。いや、お互い最愛の人と結ばれるのは先になりそうだが。」

「よくご存知ですね。流石情報が早い。」

「悪魔族との婚約、婚姻の話はすぐ広まるものだからね。」


ふと空気が揺れた。それは術者の悪魔しか判らないもので、誰かが門を通ろうとしたらしい。魔力が感じられない。それならば、迷い人だろうか。

「申し訳ないのですが、今日は戻りたいと思います。」

「そうかい?また今度、義兄弟水入らずで食事でもどうだい?」

「……楽しみですね。」

注意深く相手を観察しながら、応える。足早に出口に向かう。それ故に肩がぶつかり合う。

「申し訳ない、ソロン子爵。」

「いえ。」

男性用のコロンと何かの混じり合った匂いが鼻につく。そして一瞬の違和感。

しかし、それも霧散していく。イヴァンは、ただ帰路に急いだ。


「16.想いの行き先」如何でしょうか?

ちょっと唐突かな、とも思いましたが、進めます。


読んで下さる皆様、ありがとうございます(^O^)

遅筆な作者にお付き合いくださいませ。

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