15.彼女の物語
「何かお困りになっていることはありませんか?ベティさん。」
ローズティーに手をのばしながらティアは問う。
「いいえ。此処は居心地が良くて、つい長居をしたわ。」
約二週間という時間。ごめんなさいね、と彼女は囁くように言った。
「ただ一つお願いをしても良いかしら?」
「はい、どのようなことですか?」
「ただね、老いた後悔ばかりしている女の話を聞いてくれるだけで良いのよ。」
其処で一旦ベティは言葉を切る。ティアは驚き戸惑いながらも先を促す。それは長い彼女の物語だった。
「ベティ!」
婚約者である彼に名前を呼ばれる。未来を夢見ながら過ごす穏やかな毎日。
それは粉々に砕け散った。
ある一人の悪魔によって。
「彼が居なくなった?……嘘よ、彼が死ぬはずないわ!」
認めないと言いながらも、どこか遠い場所へと、彼の姿が霞んでゆく。ベティの世界から色という輝きが失せていった。
そして現れたのは、一人の怪し気な香りを持つ男。
「行こうか?」
「…どこへ行くの?」
「入り口は複雑だ。」
男はそう言っただけで、もう何も言わなかった。少女の意識は闇の中へと消えていった。
彼女は息をついた。瞳の光は暗く、翳っている。
「それから私はその男性が婚約者を死に至らしめたということを知ったの。
ずっと憎まなければいけない、と思い込んで過ごして。だから、生まれてくる子も……憎まなければいけないなんて思ったのよ。」
でも、そんなことは出来なかったわ、彼女は呟く。
自分を求め、私が抱けば安心したように笑うその子は守らなければならない存在だった。
「何度も願ったわ。……悪魔族でなければいいのに、って。そうしたら私は何にも邪魔されずに大切にできるのに。」
そしてまた彼女は言葉を紡ぐ。
「夫が病に倒れた時、私は去ることばかり考えた。……私は逃げたの。全てのものから、夫からも、息子からも、自分自身からも。私が弱くて、狡いからだわ。でもティアさん貴女は違うわね。」
「……あの?」
「貴女の愛がきっと貴女が想う人を救うでしょう。」
「ベティさん、貴女の……。」
「もう何も聞かないで、言わないで。」
ごめんなさいね、と彼女は言う。
「ありがとう、ティアさん。お話が出来てよかったわ。」
彼女の笑みは悲しげだが、美しかった。晴れやかな表情をしている。
ティアは彼女の手を握った。小さな声で
「……お母様。」
と呟く。
「ごめんなさい、母が恋しくなってしまって…。」
きっと見透かされている。
わたしが嘘をついていること。
この出会いは偶然ではなくて、彼女自身が望んだことなのだ。ティアは、それをはっきりと解っていた。
「また、お会いすることは出来ますか?」
彼女が少し首を振る。
「……きっと、―――――――――。」
余りに小さな声の為に、聞き取れない。
「ローズティーをありがとう、ティアさん。私はもう行かなくてはならない時間だわ。」
疑問を持ちながら、ティアも立ち上がる。
やけに自身の身体が重かった。
遅くなりました。申し訳ありません。
「彼女の物語」如何でしょうか?
ちょっとぐちゃぐちゃしてますね(>_<)
はあ、表現力不足。