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悪魔の涙  作者: 紫聖
12/19

12.新しく懐かしの邸

ちょっと血とかあります。苦手な方はご注意ください。

フェアリット邸に着き、迎えてくれたのは以前から仕えてくれていた執事達と弟ルイファンだった。顔には疲労の色が窺えた。彼らは微笑もうと努力したようだが、その表情が作られることはなかった。

「ティアお姉様!おかえりなさい。」

「ティアお嬢様、おかえりなさいませ。」

「ただいま戻りました。フェアリット家がこの邸に居を移して、私は初めてですからよろしくお願いね。」

ティアも笑みを作ろうと努力するが、それが出来ずに憂いを含む表情になる。

帰って来たという実感は今更ながらにやってきたのだった。

「今夜はお姉様は休んでください。父上様とは明日……「ルイファン、それは出来そうにないわ…。」

お父様のご病気がどのようなものでも、私は受け止めなくては。

「……他のお姉様達は父上様が病になってから初めての面会で、……卒倒されてしまったのです。」

ルイファンは一端そこで、息をついた。

「僕自身も初めての面会は……、落ち着いて面会することができませんでした……。」

その様子にティアの胸もざわつく。

それほどお父様の病状が悪いなんて。

悪い予感ほど当たってしまう。どうしてかしら……?疑問を口には出さずに徐々にうなだれていく弟を見つめていた。

「……父上様の体に障ります。それに感染者はまだ居ませんが、医者も首を傾げてしまったのです。何も分からない未知の病と言える、とも言われました。」

「お父様に会いたいの。だってたった一人の肉親でしょう?私が会ったところで何かできる訳ではないけど………。」

暫しの沈黙。息することさえも、遠慮してしまうほどの。その沈黙を破ったのはルイファンだった。

「父上様の寝室は邸の玄関から最も遠い部屋です。ティアお姉様、行きましょう。」




「以前の邸より広くなったわね。」

しかし、無駄な装飾は見当たらない。飾らない故に気品が感じられる。

「…マティンリ侯爵の融資のおかげです。」

その場に流れた奇妙な空気は消えることなく、留まっている。

その後に続く言葉は聞きたくなかった。

「父上様はずっと嘆いておられましたが。」

明らかに含まれる非難の色に、ティアは体を震わせた。それを弟がどのように解釈したのか判らない。

「こちらが父上様の寝室です。体中から血が止まらない。少量でリズムがあるそうなんです……。」

ルイファンがノックをして、中にいた医者が返事を返した。

扉を開けた瞬間、ティアは血の匂いにあてられた。目眩に襲われながらも父の姿を見た。

余りの姿に驚き、意識が白濁していくのを感じ、立っていることができなかった。









意識が覚醒する。寝ている間に幾度も幾度も、出てきた光景。全身を覆う白い筈の包帯は赤黒かった。

ティアは怖いと感じた。得体の知れない恐怖と言える。息が苦しくなって、目に入った水差しを取ろうとした。横から手が伸ばされる。ティアはその人を見た。

「……トゥユリ?」

「はい、ティア様。」

さっきまでの感情が瞬く間に消えてしまった。次に現れたのは安堵だった。

「戻って来てくれたのね?」

「ルイファン様の取り計らいです。ティア様がお戻りになると聞きましたから。」

「……敬語やめてくれないかしら?」

「できません。とりあえず、今夜はお休みになってくださいませ。」

反発したい気持ちはあったが、身体がそれを許さないように重い。

「明日の朝、ほんの数分でいいの。……幼なじみとして話したいのよ。」

「今は休んでください。………わたしも聞きたいことがあるから。」

完全な闇夜だった。月明かりも射し込まない。それでも寂しさを感じなかった。




光を眩しく感じながら、ティアは目を覚ました。

身支度をして、ティアはトゥユリに手伝ってもらい、淡いグリーンのドレスを着た。袖には細やかなレース。ふと、イヴァンの顔が頭の中を横切った。

トゥユリが取り出したのは、レースのチョーカーだった。ドレスと合っている物ではないと、ティアは困惑した。

それを問いかけてみる。

「………ねぇ、どうしてチョーカーを着けるの?」

彼女はそっとため息を吐いた。

「ここが痒いとか、痛んだりする?」

トゥユリは首筋のある場所を指で軽く触れながら、ティアの疑問には答えてくれずに質問をする。

そのことに、ほんの少しティアは拗ねた。彼女が指す所はティアには鏡を使っても見えない場所だった。

「そんなことはないのだけど、……どうして?」

「淑女になんてことしてるの………!」

トゥユリが口の中で唸るように呟く。小さな声のためにティアの耳には意味を為す言葉としては届かなかった。

「トゥユリ?」

はっとしたようにトゥユリは何でもない、と返事を返した。

「せっかくあるのだから、使わないと勿体ないでしょう?」

まだ怪訝に思いつつ、ティアは従った。

髪を結われながら、ティアは今日は四人の姉達に会うことについて考えていた。その前にもう一度お父様にお会いできるかしら?

「終わりました。ティア様。」

主従の関係が再び戻ってしまい、残念な気持ちを胸の内に留めながら立ち上がった。

窓の側に行き、遠くを眺めた。昨日と同じで晴れている空を。雲が一つだけ迷子になっていた。





「12.新しく懐かしの邸」如何でしょうか?


イヴァンはフェアリット家側の人間には嫌われてしまっています(>_<。)

まずは悪魔族ということと、次はティアと家族を引き離したということで。

トゥユリが初登場です!!


読んで下さった皆様、お気に入り登録をして下さった皆様、本当にありがとうございます(^O^)♪

これからも遅筆な作者にお付き合いください!

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