1.悪魔族 侯爵様
「火事になったお屋敷や使用人の保障の為の融資を致しましょう。」
指を組み換えながら、余裕の表情を浮かべてみせる。すると、フェアリット男爵はほっとした様子を見せた。
「マティンリ侯爵有難うございます。よろしくお願いいたします。」
言い終わるのを待ち、付け加える。
「但し、一つ条件があります。」
さっと顔は不安そうに変化した。
「どのような条件でしょうか?」
「男爵、貴方には五人もの娘達がいる。
末娘のレディ・ティアをいただきたい。
その条件がのめないなら、融資は致しません。」
「何をおっしゃる……。娘達は妻の残した宝だ。ティアを手放すなど、できるはずがない。」
「いつかはどこかに嫁ぐものでしょう?それが早まっただけのこと。」
「それに侯爵……、貴方は悪魔族だ。ティアをどうするつもりで……?まさか、おぞましいことをさせるのでは…………?」
不敵に微笑めば、青くなり始めた。
「貴方の判断で決まる。それに私は知っていますよ。貴方に多額の借金があることも。もうすぐ返済日でしょう?…………では、失礼します。」
言い放つと立ち上がる。イヴァンはドアへ向かった。
馬車のドアが閉まった。
「イヴァン様、どうでしたか?」
従者のアスキスはそう問いかけた。
「もうすぐだ。」
自分に言い聞かせるように呟く。雷鳴がとどろき、強い雨が降りだした。屋敷への道を馬車は走り出した。
十年前、魔王は人間を支配しようと戦争を仕掛けた。三日で人間達は降伏し、この国は悪魔族がいてもおかしくない状況になったのだった。
悪魔族には、男子しか生まれない。子孫を残す為に人間の女を妻とした。
あるパーティーで、恋に落ちた。彼女に。自然を愛しているからこそ、植物の精霊を傷つけてはいない。よく微笑む彼女、美しい髪。手に入れたくてたまらない。彼女が他の男を愛す前に。
「イヴァン様着きました。」
「ああ……。」
馬車を降り、玄関に向かった。
「旦那様、お帰りなさいませ。」
執事に帽子とステッキを預けた。夕食をとる場では、幾人かの給仕がすでに控えている。
「根回しは済んだか?アスキス、ガスト?」
「はい、旦那様。フェアリット男爵様のお知り合いの貴族は買収致しました。また、圧力も多少。使用人を少し唆せることも致しました。」
「よくやったな、アスキス、ガスト。」
「主人の為に働くことが役目ですから、当然です。」「旦那様の幸せを我々は、祈っておりますので。」
赤ワインの香りを楽しみ、口をつけた。料理を口に運ぶ。五日後には、フェアリット男爵はこの屋敷に来るはずだ。
全ては整っていた。
ティア嬢はまったく登場していませんですけど(笑)
イヴァンはちょっと屈折気味です。
悪魔族といっても、人間とあまり変わらない方向でお願いします(汗)
見た目はまったくの人間です。