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9話 両親の逮捕……

 健康的な小麦色の肌にエキゾチックな相貌を、きらめく青紫の瞳で飾っている。髪は藍色のワンレングスボブ。リヒトとはまた違った意味で中性的な魅力を持つ女性だった。


 年は三十そこそこ。助手席に座ってはいるが、おそらくリヒトの上官だろうと思われた。


「ご苦労リヒト。いきなりのミッションになってしまって、申し訳なく思うよ」


 さっぱりしたできる女といった風貌もしている。


「いえ、こちらこそご協力いただき感謝します。今も助手席に座らせてしまい恐縮です」


 リヒトが答える。この女性がリヒトから見て目上の人間なら、マナー上リヒトが助手席に座るべきなのだ。空っぽの運転席に視線を向けつつ、ポラリスはぼんやりそんなことを考えた。


「いやいや、今は君がポラリス嬢の隣にいるべきだ。幸か不幸か、うちにはマナーにうるさすぎる人間が皆無だし」


「……ありがとうございます。ああポラリス、こちらがクレアシオン神殿の神殿長だ。今はまだ落ち着かないだろうから、また改めて紹介するよ」

「はい」


 ポラリスは真剣にうなずいた。

 これから自分が何をするのか、具体的にはまだわからない。それでも多くの人たちの名前を覚える必要があるだろうことくらいは理解していた。



 その後、警察とやり取りをしていて席を外していたという壮年の男性騎士の運転で、一行はまずクレアシオン神殿付近にある神殿付属病院へ向かった。


 車内は水を打つように静かだ。神殿長がいるのに気を遣って、気軽に雑談という訳にもいかないのだろう。


「ひどい生活を強いられていたんだ。数日入院して一通り検査を受けたほうがいいよ。ついでにちょっとはゆっくりできると思うし」


 リヒトにそう言われて、ポラリスは素直にうなずいた。


  目の前にリヒト・フローレスがいる。


 年月が経過した分大人の男性へと肉体が成長していたが、その風のように優しい微笑みはあの頃とまったく変わらなかった。

 それもリヒトは、ポラリスの守護騎士としてここに来たという。


 ――もしかして誰かが、私にドッキリを仕掛けているのかな?


 そう思いたくなるくらいに、夢に見た展開が訪れている。


 ポラリスはリヒトにまた会えて嬉しい。

 リヒトはポラリスに会えて、どうだろう。


 なりたくもないのに無理やりポラリスの守護騎士にされたのではないかと、後ろ向きな気持ちが顔を出したとき。


「ポラリス、どうしても君に今話しておかなくてはならないことがあるんだ」


 言う、リヒトの声は硬く強ばっている。得体のしれない緊張感に、ポラリスは膝の上の両手をぎゅっと握った。

 

「…………何でしょうか」

「君の、ご両親のことだ」


「両親がどうされましたか? なんとなく……先ほど警察の方々がいるのを見ているので悪いことが起きているのはわかるのですが」


 何も事件が起きない平和な家に、警察は来ない。

 気がつくと神殿長だという女性も気遣わしげにこちらを注目していた。


「……そうなる。これは僕が警察から直接聞いた話だ。だいぶしんどい話になるけれど……いいかな」


 ただならぬリヒトの様子に、けれどポラリスは臆せず答える。


「いえ、私は大丈夫です。続けてください」


 リヒトは感情的にならないよう、できるだけ淡々と話す。


「君のご両親に、さまざまな罪の容疑がかかっている」


 ポラリスの心臓ががた、と嫌な音を立てた。

 やはり、という気持ちと、そんなはずはない間違いだと叫びたい気持ちがせめぎ合った。


 リヒトが続ける。淡々とした言葉の端々が、わずかに震えているようだった。


「君を虐げていたこともそうだし……。ベネデッド氏は会社で暴力沙汰を起こして部下を自己都合退職に追い込んだり、会社の金を勝手に使って風俗で使い込んだりしていた。イヴォン夫人のほうは……違法魔法デバイスの販売に手を染め、それで買い手に重い健康被害を負わせている。それで神殿も、警察に協力していた……」

 

「そう、でしたか」


 ポラリスは消え入りそうな声で、何とかといった様子で答える。

 まるでぺしゃんこになったケーキみたいに、地面に落としてぐしゃぐしゃになってしまったジェラートのように。


「次期聖女の身内に逮捕者が出るのは……珍しいことではないんだ。神殿もこういうことは慣れているし……世間も受け入れてくれることが多いよ」


 たとえ世間からの目が大丈夫でも、ポラリスの精神状態は大丈夫ではない。


 いくら毒ばかりでちっとも薬にならなかったとはいえ、このアタラクシアという世界にポラリスを産んでくれた親たちだ。


 いくらいい思い出が限りなくゼロに近いとはいえ罪人となったと知って、少なくとも気持ちよくはならない

 リヒトだって、稲妻が走るような衝撃を受けている顔をしていた。

 

「ポラリス」


 リヒトに気遣わしげに名を呼ばれる。


「リヒト、今は             」


 神殿長が何かいっているようだが、早口でもないのにわからない。


「まもなく病院だな、そろそろ下りる準備を」


 運転手役の壮年騎士が、暗い空気を打ち破るような口調で言った。


「了解です。ポラリス、病室には僕も泊まるから。だから大丈夫だよ――」


 何やらリヒトが重要なことを言っていた気がするのだが、ポラリスは華麗に聞き逃していた。


 否、ショックで聞き逃さざるを得なかった。

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