表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/38

21話 副官エル

 リヒトが休憩スペースの自動販売機で、ポラリスと自分の分の缶入り林檎ジュースを買ってきてくれた。缶には瑞々しい林檎の果実が描かれた、果汁百パーセントのものだ。


 クレアシオン神殿の職員用詰所にある休憩スペースには、木目調の丸テーブルと椅子が並ぶ。壁に沿うようにして、エテルノ王国では意外と珍しい自動販売機が二台並んでいた。それぞれ飲み物と小さな菓子が販売されている。


 ポラリスは缶ジュース片手にリヒトと共に丸テーブルに付く。


「それじゃとりあえず、無事に挨拶できたことに乾杯」

「乾杯」


 告白の件はともかく、今は無事に(?)挨拶が済んだことを喜ぶべきだろう。

 かちゃ、と缶と缶を触れ合わせて、甘酸っぱい味わいのジュースを半分ほど飲む。


 真剣な面持ちで向かい合ったところで。


「姫~、いるか~?」


 どこかひょうきんな美声が割り込んできた。どこかで聞いたような声だ。

 ポラリスとリヒトが声の方向を向くと、一人の人類種の青年騎士が立っていた。


 黒い短髪に海のような色の碧眼、リヒトと髪と瞳の色合いが同じ、一見精悍な雰囲気の長身で白皙の美青年だ。


 中性的で超自然的な美貌を有するのがリヒト、ならこちらは俳優やファッションモデルにでもいそうな王道美形といえた。


「どうしたんだエル、今君は勤務中だろう」

「一応これも仕事の一環として来たんだけどなあ」

「本当かなあ? 言っておくけど貸す金はないぞ」


 青年の姫呼びにも臆せず、リヒトは青年に呆れたような、だけど嬉しそうな声をかける。


「おいおい、俺が姫から金なんか借りたことなんてあったか?」

「騎士学校に入りたての頃、立てかえたちょっと高いアイスクリーム代もらってないんだけど」

「えー、あれおごりじゃなかったのかよお……」

「君の財布が空っぽだったから、貸してあげただけだよ」


 軽口を叩き合いながら、リヒトがくすっと笑った。ポラリスと話す時とはまた違った、同性の親しい者同士の空気を感じる。ましてや美男子二人だ、ポラリスの目にはまぶしい。


「と、いけないいけない。俺はお前の副官として、ポラリス様にご挨拶にきたんだぜ」

「そういう大事なことは先に言ってくれよ……」


「貸す金がないとか言い出したのは姫のほうじゃん」

「わかったわかった、いいからポラリスに挨拶してくれ」


 リヒトが淡く苦笑する。きょとんとするポラリスの前に、黒髪碧眼の青年が向き直った。


「お久しぶりです、ポラリス様」


 さっきまでとは打って変わった真面目な様子で、ぴしっと敬礼した。


「私はクレアシオン神殿、次期聖女警備部隊所属の神殿騎士エル・ファインマンと申します」


「ええ、お久しぶりです。やはりエルさんでしたか」


 ポラリスもリヒトのことを姫と呼び、親しくしている姿からなんとなくそうかと思っていた。


 エル・ファインマン。リヒトとシリウスにとって小学校時代の親友だ。

 挨拶回りの前になんとなくリヒトから話は聞いている。中学は別々だったが、リヒトとは騎士学校で再会したという。学生寮では同室だったこともあり、行動を共にしていることが多かったとか。


 ……小学校時代は給食ワゴンをひっくり返したり、馬のかぶり物をしてふざけたりとかなりのやんちゃをしていたりした。

 しかしわざと他者に迷惑をかけるタイプではない。どちらかというと笑いを取ろうとして勝手に自爆するほうだ。


 今もほどほどに当時の面影はある。

 あんまり真人間(?)になられても落ち着かないので、これくらいでちょうどいいのかもしれないとポラリスは思う。だってリヒトも楽しそうだし。


「覚えていていただけて光栄です、ポラリス様。リヒトの副官としてもあなた様をお守りいたしますので、どうぞご安心ください」


 エルがにかっと輝くような笑顔を見せた。

 たとえるならリヒトは優しいひだまり、エルは灼熱の日差しだろうか。それぞれ異なる光を有している。


「よろしくお願いします。あまりご無理はなさらないでくださいね」


「ありがとうございます。リヒトは寂しがりなところもありますので……副官である私からもどうぞよろしくお願いします」

「ちょっとエル」


 どさくさ紛れて「寂しがり」と言われた本人が、エルにじっとり湿度の高い視線を送る。親しい者同士だから許される、じゃれ合うような言葉の応酬。


 守護騎士として日々ポラリスを守ることにすべてをかけるリヒト。そのそばに副官として、古くからの親友がいてくれるのはホッとする。ポラリスとしても、知り合いがいるのは助かる。


 だけど。ポラリスの胸の奥、エルとしては何気なく言ったのかもしれない言葉が、何気なく残ったのだった。


 ――『寂しがり』。

 ――リヒトさんにも、きっと弱い部分があるのね。


 ついついそんなことを思ってしまうくらいには。


「ところで先ほど、ポラリス様がリヒトと相思相愛の告白をされたとうかがったのですが」


 真面目なトーンで言われて、ポラリスはジュース缶を落としそうになった。


「そ、そのことは今二人でお話しようとしたところですっ」

「そ、そうだよエル。僕たちはちょうどこれからについて話そうと思って、」


 本来の目的を思いだし、二人は真っ赤っかになった。


「何かあれば周りを頼れよ、姫。ポラリス様も俺でよろしければ相談に乗りますので」


 何はともあれ、エルの申し出は純粋に有難い。


「そうだねエル。これから君たちにかなり頼ることになる。よろしく頼むよ」

「そのための俺らなんだから、あんまり気にするなよ」

「ありがとうございます、エルさん」


「じゃ、俺はいったん持ち場に戻るわ。二人でしっかり話しとけよ姫~」


 太陽の笑みを残し、エルはその場を去って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ