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16話 一緒にいるよ

 ポラリスの入院生活も順調に過ぎていった。


 優秀な医療職員たちや侍女セレッソ・ロサの尽力もあって、ポラリスの体調は少しずつ安定してきた。

 ポラリス自身、あまり不調続きで長期間周りに心配をかけ続けたくない気持ちもあった。


 昨日は短時間ながら、オルタンシア女子高校の担任の先生と学校長がお見舞いに来てくれた。

 実の親の手による虐待という大変な目に遭ったことへの労りと今は何も心配せずゆっくりするといいこと。それに加え神殿での生活が落ち着けばまた高校に戻っておいでとの話をしてくれた。


 なんでも教師やポラリスの友人が心配し、学校から児童相談所に連絡をしてくれたことも幾度もあったという。

 AI技術が普及したエテルノにおいても、児相職員は全員生身の人間でなくてはならない。結果児相の人手が足りないこと、ポラリス以上に急を要する案件が多数あったことから後回しにされてしまっていたらしい。


 悪いのは虐待したイヴォンたちだ児相の誰が悪い訳ではない。ポラリスはどちらかといえば、自分以上にひどい目に遭っている子どもがいるという現実に心を痛めた。


 その晩リヒトも自分の力不足を嘆いていた。クレアシオン神殿には付属の児童保護施設がある。だが仕事の管轄が違うという理由で、リヒトら神殿騎士が人の家に立ち入って子どもを緊急保護することはできないのだ。


 ともあれまた学校に戻れそうだという知らせは、ポラリスの心をいくらか明るくしてくれた。


 それと学校長が神殿の方々用にと有名パティスリーの焼き菓子詰め合わせを差し入れしてくれて、セレッソが飛び跳ねて大喜びしていたりしたのだった。


 

 今日の午前中はクレアシオン神殿長であるトリシャ・アレグリアがお見舞いに来てくれた。

 リヒトと共にポラリスを迎えに来た、紺色の髪の女性がトリシャだ。


 トリシャはどこかローザベルを彷彿とさせる気さくな女性でもあった。

 ポラリスの体調を案じ、リヒトを会議等の業務で多忙にさせてしまっていることを詫びた。


「せっかく再会できた二人なのに…………リヒトには忙しくさせてしまっていて申し訳ないよ」


 社交辞令ではなく、本気でそう思っているのがありありと伝わる言い方だった。


「いえいえ。リヒトさんも必要なお仕事をしているだけですから。それにそのぶん夜にはたくさんお話していますし」


 さすがに毎晩キスしてからおやすみなさいしているんですぅ、とは言えなかったけど。楽しく会話しているのは確かだ。


「ポラリス嬢、今更にはなってしまうが。希望すれば次期聖女にならないという選択肢もあるんだ。辞退したとしても一度マザーの選定を受けた以上、君のことは神殿のほうで生活の世話ができるし。そうすればこちらから大学に行くこともできるけど……」


「大丈夫です、私がんばります」


 今更ならない選択肢は、ポラリスの中にはなかった。


「そうか。何かあったらリヒトでもセレッソでも私でも、早めに助けを求めて欲しい。特に守護騎士は二十四時間毎日、聖女に仕えるためにいるわけだし」


 ――頼って、いいのかしら。


「はい、ありがとうございます」


 仮にポラリスの精神や肉体が限界に達していたとしても、ポラリスは次期聖女の道を辞さなかっただろう。


 聖女になることをやめたら、守護騎士であるリヒトとの縁が永遠に途切れてしまうような気がして。




「いいよ、もし聖女でいるのが無理になったら一緒に逃げよう」


 その晩。またしてもあっさりとリヒトは言った。ポラリスは拍子抜けする。


「えええええ。リヒトさん、それはまずいですよ。リヒトさんは聖女が逃げ出さないよう監視もされる立場なのですから、リヒトさんが社会的に死にますよっ」


 それは困る。大事な人が路頭に迷う姿を見たくはない。


「んー。確かに現聖女のハンネローレ様にはご迷惑かけるけど、次期の聖女のうちだったら割と大丈夫だよ。前例も結構あるしいけるいける」


 ――あ、前例があるのね。


 リヒトが無鉄砲に言っている訳ではないと知り、ほっと肩の力が抜ける。


「だいじょうぶです。このポラリス・クライノート、必ずや聖女として皆様のお役に立って参ります」


 ポラリスが凜とそれっぽく言うと、リヒトが安心したように笑う。やっぱりこの青年には爽やかな笑顔がよく似合う。


「うん。やっぱりポラリスは強いよ。本当に強い」

「そうでしょうか」


 あまり自分を強いと思えたことがない。


「強いさ。普通同じ立場でも、やられたからやりかえしてやるって犯罪に手を染めるような人だっているんだからさ。でもポラリスは、自分のできることを自分で探しているだろう?」


「それは……そうかもしれませんね。私はこのシレンシオという街が好きですし」


 あんな実家に生まれてはしまったが、ポラリスは王都シレンシオのことを愛していた。

 通っていた小中学校も今通う高校も、人々がゆったり行き交いビルの並ぶ街も、手つかずの部分も少なくはない豊かな自然も。


 リヒトがはにかんだ。


「僕もだ」




 それからの退院までの時間は、まずセレッソと一緒に退院以降着る服を確認した。


 ちなみにポラリスの生活費等の件で、神殿側はクライノート家からそれなりの金銭を受け取ったという。

 裁判を経て数年は刑務所暮らしのクライノート夫妻に代わって、親戚の名義で支払いがあったとのことだ。


 もしこの支払いがなければ公費の世話になっていたらしい。まだ次期聖女として何もしていないのに税金の世話になるのは後ろめたいので、そこは助かった。


 今日用意してもらった服もおそらくその親戚名義のお金で購入されたものだ。はっちゃけすぎない、上品なテイストのものを中心に用意してもらった。



 続けて白地に青い小花を散りばめた可愛らしい柄の便せんにブルーブラックのインクで、友人たちそれぞれに宛てた手紙を書いていく。


 今回の件でだいぶ心配をかけてしまっているだろうから、とりあえず近況だけでも伝えたかったのだ。 

 スマートフォン自体は所持しているが、長文になることもあって手書きで気持ちを伝えたかった。特にローザベルにはリヒトが来るとメッセージももらっていたのに、全然連絡できていなかったのだ。


 ポラリスが神殿に保護された日から少し経って、守護騎士リヒトと神殿長トリシャが直接オルタンシア女子高校に出向いたという。


 その際リヒトは教師陣だけでなく、ポラリスと親しい友人たちにも会っていたのだ。


 ちなみに。セレッソがこっそり話してくれた内容によると、美貌の騎士たるリヒトの登場にはその場に居合わせた女子高生一同が騒然としたらしい。

 いかにも女子校、といったエピソードだ。多分共学校だったらそこまで大騒ぎにはならないと思う。多分。


 なおリヒトと会ったポラリスの友人たちは、突如現れた神殿騎士さまの美しさそっちのけでまっすぐにポラリスの安否を訊ねてきたという。

 リヒトもそんな彼女らに好感を持ったらしく、連絡先を交換したとのことだ。


 ……ポラリスからすると嫉妬の種ができた気もするが、守護騎士と友人とで連絡を取り合ってくれるのは有難いことであった。


 本当なら現在、公立共学高校に通うローザベルにも送りたかったが、便せんで封筒がパンクするくらい書きたいことがあるのでいったん保留とした。主な話題は妖精烏の男の子との再会についてである。


 セレッソに書き上げた手紙を託した。


 リヒトとの再会はとてつもなく嬉しかったけど、早くまた友人たちにも会いたい。

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