12話 お泊まりリヒト
そういえば。さっきからリヒトが気になることを言っていた気がすることを思いだす。
なんでも、リヒトがこの部屋に。
「あの……、リヒトさん。もしかして私の入院中はここにおとまりされるのですか?」
おずおずと訊ねると、リヒトからは実にあっさりと答えが返ってきた。夕食に出たトマトスープよりもあっさりした味わいだった。
ちなみにポラリスは生のトマトが苦手である。種がぐちゅぐちゅしているのが嫌なのだ。
「ん、そうだよ」
――リ、リ、リヒトさんと同じお部屋にお泊まりなんてっ!
「あ、あの、わたし、男の人と二人きりで夜を過ごすのは、いえ、その、肌を重ねるとかは、ちょっと」
ポラリスは勢いよくあわあわとした。若干あれな感じのことも口走ってしまい、ポラリスは嫌でも体温が上がるのを自覚した。
もうポラリスもリヒトも子どもではない。一八歳成人のエテルノ王国においては、もうすぐ一九歳のリヒトは法律でも認められた『大人』である。
お年頃の男女が夜中じゅうおんなじ部屋に二人きりなど、絶対何も起きないはずがない。起きない場合もあるのだろうけれど、きっと。
「ああ。ちょっとあれな話だけれど、妖精種には自分の色欲を抑制できる能力があるんだ。だから決して合意なしで君に襲いかかることはない」
「そうだったのですか」
実に便利な能力である。妖精種たちが人間社会で生きていくのに必要だからこそ習得できたのだろうけど。
それにリヒトに『ちょっとあれ』な話題を出されてポラリスの胸がどきどきした。今心拍数測定したら、確実に異常値を叩き出してしまいそう。
中学高校と由緒正しき女子校育ちのポラリスだ。男性とのそういうことを意識することには、正直あまり慣れていない。
恋愛結婚の多様化が進んだ今の時では代、オルタンシア女子高校の学校内で少女同士で恋に落ちる場面を何度も見た。彼女たちもそういうことを意識してお付き合いしているのだろうか。
ちなみにエテルノ王国は性犯罪に凄まじく厳しい。未成年を無理矢理、などしたら問答無用で刑務所行きである。
国内での性的合意年齢は一七歳と世界的に見ても結構高い。未成年の望まぬ妊娠抑制のためであるという。
一七歳のポラリスは一応合意年齢に達してはいるが、まだその手の営みをしたいとは思わない。
たとえ大好きなリヒトが目の前にいても、だ。
なんというか、生々しすぎる。
目の前にいる大好きな男の子とそういう『営み』のことを結びつけようとすると、否が応でも悶々としてしまう。結果変な想像をしそうになって、焦って何も考えなかったことにしたポラリスであった。
「僕たちは幼馴染みのようなもので大事な友人同士でもあって、次期聖女とその守護騎士でもあるけど…………まだ」
リヒトは穏やかな微笑を浮かべつつも、真剣な声音で説明してくれた。
「……はい」
ポラリスも平常心を保って応える。
「僕たちはまだ恋人同士ではないし、君は未成年で体の調子もよくないから。……僕としてもそういうことはしたくないし、できない。それでは君を守ることにならないし、僕も大切な女の子を傷つけたくはないから」
「――はい。お気遣いありがとうございます」
リヒトが自分のことを女の子としても気遣ってくれていることが嬉しかった。
「では、リヒトさんからお先にシャワーどうぞ」
「いいのかい?」
この病室には狭いながら清潔なシャワールームがある。付き添い用ベッドといい至れり尽くせりだ。
「ええ、お疲れでしょうから」
ポラリスを迎えに来ただけでも、結構疲れたのではなかろうか。
「ありがとう。じゃ、お先に」
リヒトが出てきたあとに、ポラリスがシャワールームに入る。
当然だがシャワールームには使用されたばかりの痕跡があった。
長く黒い髪の毛が数本ほど落ちていたのは……あまり気にしすぎないほうがいいのだろう。
――何も見てない! シャワーを浴びたリヒトさんが落としたであろう髪の毛なんて、全然見てない!
一応ちゃんと髪の毛は片づけておいたけど。
良いのか悪いのか、色々あったお陰もあってかなり体が温まった。ポラリスは気持ちよく病室に戻る。
紺色のパジャマ姿のリヒトが、妙に神妙な面持ちをしていた。
「ポラリス、その……。キスなら、してもいいかい?」
――えええええええええええ!




