第6話「過ち」
戦闘が終わり、インターセプト部隊と市民が協力して瓦礫などの撤去や負傷者の治療をおこなっていた。
犠牲は最小に抑えられたが、それでも2名の隊員と3名の市民が犠牲となってしまった。市民は初撃のロケット弾による爆発で、隊員は銃撃戦で亡くなった。
しかも負傷者が大量に発生したため、しばらくの間、931小隊は市民のケアに当たっていた。
主に治療をしていたのはアイリスであったが。
「足に破片が刺さってしまった……治療してもらえませんか?」
「こっちも……頭を切ってしまって……」
「はい! 今治療しますのでもう少しだけお待ちください!」
アイリスは数十人の負傷者に止血などの応急処置を施した。
「アイリス、もう救護部隊に任せていいんじゃないか?」
「いえ……もう少しだけ治療させてください、マスターさん」
真剣な眼差しで負傷者に包帯を巻く、とても16歳とは思えない姿に、マスターは感心していた。
――その時
「なんだ……? やけに騒がしいな」
奥から人々が言い争う声が聞こえた、声の聞こえた方向へ近づくと、そこには怒りを現にする市民とそれを静止するインターセプトの兵士がいた。
そしてその側には泣きながら頭を下げるジュインと今にも市民に手を出しそうなマグノリア、そしてそれを必死に止めようとするゲイルがいた。
「おい! 一体何の騒ぎだ……!」
「マスター……! ぐすっ……うぅ……」
兵士が興奮している市民を抑えながら話す。
「指揮官さん! 一部の市民がダアト人の隊員に差別的な言動を投げ掛けたんです! それで隊員と口論になって……ああ! 皆さん落ち着いてください!」
「この怪物め! お前らが守らなかったから負傷者がこんなに出たんだ!恥を知れ!」
「ダアト人がインターセプトにいるなんて考えられない! 誤射に見せかけてで市民を狙ったんじゃないのか!」
「戦闘せいで家も何もなくなった! どうしてくれるんだ!」
心無い言動が彼女たちに投げ掛けられる。
「この野郎……命かけて守ってやったのに……ふざけるな! おいゲイル! 放せ! コイツらをぶん殴ってやる!」
「マグ落ち着いて! 市民に手を出しちゃダメだ!」
「うわぁぁぁん……! ごめんなさい……ごめんなさい……私たちのせいで……」
周りは阿鼻叫喚であった。差別、暴言、泣き叫ぶ声、目を覆いたくなる現実にマスターは手のひらを血が出そうなくらい強く握った。
「市民の皆さん、私たちは全力を尽くして貴方たちをお守りしました。どうか暴言をお止めください……」
「ふざけるな! 何が全力を尽くしただ! 市民を守れなかったくせに偉そうな口聞くんじゃねぇ!」
「ダアト人を匿うなんてイカれてるぜ!」
「……みんな、撤退だ。基地に戻るぞ」
暴れるマグノリアと泣くジュインをなんとか引き連れて基地へ帰還した。
帰投後、まだ涙を流すジュインを、マスターは必死になだめていた。
「ジュイン、落ち着いて。君たちを信じてくれてる人がいるからきっといる、だから今日あったことは忘れるんだ」
マスターが優しくジュインに声をかける。
「うぅ……私なんて……怪物なんです……みんなから……怖がれるだけなんです……」
「ジュイン、やめろ」
「私なんか……私なんか……」
「ジュイン!」
「ひっ……!?」
肩を揺さぶって大声で咎める。暗いことばかりを考えてると、そのまま闇に飲み込まれてしまう。
だからこれ以上、自分で自分を苦しませないように、マスターは彼女にこう話した。
「いいか? お前は怪物なんかじゃない、『人間』だ。ただ耳と蹄が生えただけなんだ、その他、普通の人間となんら変わりはないだろう?」
「でも……マスター……私……」
なんとかパニックにならないように説得する。しかし、最悪なことが起きる。
「おーい、鉄パイプはここでいいか~?」
「ああ、そこに置いといてくれ。後でバラックの修理に使うから」
「わかった……ってうわっ!?」
――ガタンッ!キーン……
工兵が運んでいた鉄パイプが落下し、大きな金属音が響き渡る。
――すると。
「ひっ……! 痛い……痛い痛い痛い!」
突然ジュインの尾骶部に訪れる耐え難い激痛。
「ジュイン!?」
そしてジュインの瞳には無数の黒い手が迫り、彼女の体を押さえつける。
「あぁぁぁ! やめて……切らないで……!」
「放して! いやぁぁぁ!」
気づけばジュインは地面に倒れてのたうち回っていた。まるで何かを振り払うように、ただひたすらもがく。
暴言暴力、無数の手に捕らえられる恐怖、鋭く光るナイフと尻尾の幻肢痛。
トラウマが、忘れたかった過去が、心からすべて吹き出てくる。
「メディック! 誰か来てくれ!」
「ジュイン! 落ち着け!」
「誰も君を痛めつけたりしてない! だから暴れないで!」
騒ぎに気づいた衛生兵と工兵と共に暴れるジュインを押さえる。しかし逆効果だった。
「あぁぁぁ! ごめんなさい! 許して! 殺さないでぇぇぇ!」
「痛いぃぃぃ! うあぁぁぁぁ……!」
「指揮官さんダメだ! 一旦気絶させます!」
「ひぎっ!? うっ……うぅ……」
――結局、衛生兵が麻酔薬を注射し昏倒させ、医務室へ運んだ。