第22話「One more chance」
「続け! ジュインとマスターを探すぞ!」
アンジェラ率いる931小隊はアイン・ソフ・オウルの極秘施設へ突入していた。
マスターが見つけた地下通路に入り、どんどん進んでいく。途中途中で信者たちが迎撃をしてくるが、皆奮戦し蹴散らしていった。
「きっと牢屋があるはずだ、それを探すぞ!」
「教団施設の地下に、こんな研究所があったなんて……」
「やつら、ろくでもねぇことをしてたに違いねぇな」
部隊一塊で駆けていき、どんどん突き進んで行く。
「前方! 敵兵士複数確認!」
「砕けろ!」
ウォレンは邪魔だと言わんばかりにブレンL4機関銃を乱射した。
彼はやや細い体型ではあるが、かなり力があるため、難なくリコイルコントロールができた。力強い弾幕に敵が吹き飛ぶ。
「エネミーダウン! クリア!」
「なかなかやるじゃないか、ウォレン君」
「僕も……死地を切り抜けた兵士だからね、これくらいなんともないよゲイル」
仲間になったばかりのウォレンの動きに、思わずゲイルたちは感心した。
「しかし……複雑な道だ。これじゃ牢屋も簡単にはみつからないぞ」
「早く見つけないとマスターさんが……!」
焦りながらも道を突き進む。すると、アイリスがある部屋に注目した。
「ここ……! 武器庫じゃないですか?」
「……もしかしたら彼の武器があるかも!」
931小隊が武器庫の中を漁ると、ガンラックから没収されたジュインのAK-202とマスターのM4A1とHR-63が見つかった。
「やっぱり! ここに捕まってる……!」
「急ぐぞ! 早くしないと2人の身が危ない!」
2人の存在を確信した部隊は、さらにさらに奧へと進んだ。
――その頃。
「……クソッ!」
牢屋の鉄格子を乱暴に叩き、頭を抱えて座り込んでいる哀れな堕天使がいた。
「守れなかった……また……また失う……」
「嫌だ……もう……」
常に感情を圧し殺していた彼は、遂に声を上げて涙を流した。ニールとクレア、ミーティア。これ以上大切な人を失うまいと誓ったのに。
――また、過ちをまた繰り返してしまう。
自分は、関わった人をすべてあの世へ送る死神なのだろうか。捨てきれなかった優しさを恨んだ。いっそのこと極悪非道なアウトローになりたかった。
もう、できることはなかった。ただ牢の中で死を待つのみだった。
「……ごめん……ジュイン……ごめん……許してくれ……」
――だが、神はチャンスを与えた。運命を掻き乱すために。
「マスター!」
「……っ!?」
牢屋に駆けつけたのは、931小隊のみんな。ようやくマスターを見つけ出した。
「アンジェラ! みんな!」
「探したぞ指揮官、生きていてよかった……」
アンジェラは胸を撫で下ろした。涙が頬を濡らしているカレッジを見て、皆は驚いた顔をしている。
「おいマスター! ジュインはどこだ? 一緒じゃないのか!?」
「やつらに……連れていかれた……祝福を受けるとか……」
「……絶対ろくなことじゃなさそうだね」
マグノリアのアークブレードが青く光り、電気を纏うと牢屋の鍵を真っ二つに切断した。
「さあマスター! 行くぞ! 装備はここにある、ジュインを取り戻そうぜ!」
「……君たちだけで行ってくれ」
マスターが暗く呟く。
「……は? どういうこどだよ!」
「僕は……悪魔だ……堕天使だ……僕がいればみんなが傷つく」
「……俺なんかいらないんだ」
「おい、マスター」
「……?」
――バチーンッ!
「え……? 痛い……」
マグノリアがカレッジの頬を思いっきりひっぱたく。鋭い痛みに彼は思わす呆然としていた。
「お前がいてくれたおかげで、どれだけの人が救われたと思ってる! ジュインも、ゲイルも、アイリスも! そして……私も」
「何があったか知らねぇが、くよくよするなんてお前らしくねぇ! 行くぞ!」
「そうですよ! マスターさん! あなたが一番信頼できる存在なんですから!」
「……みんなの言う通りだよマスター。私も、マスターに何度支えられたか……」
「これほどまでに部下に信頼されてるのに、裏切るのか? 君は」
「……」
みんなの熱弁に押され、マスターはよろよろと立ち上がり、装備を整えた。
「わかったよ……もう一度、貰ったチャンスだ。絶対無駄にしない! 絶対ジュインを助ける!」
「……みんな、こんな指揮官を、どうか頼む」
「もちろんだ! 守護天使!」
「行きましょう! マスターさん!」
「私はマスターを支えるよ、あなたはひとりじゃない」
――仲間の思いを背負い、彼は再び心の中に武者震いを起こした。
「ジュインは教祖の所にいるはずだ! 救い出す!」
マスターを救出した931小隊は、教祖ドゥクスの場所へ駆け出した。
道行く信者を蹴散らしながら、必死になって通路を進んでいく。
そして、たどり着いたのは最初にドゥクスと出会った大きな空間だった。
しかし、今回は誰もいなかった玉座に彼が座っている。その脇に、先ほどもいたフードを被った謎の人物が立っていたが、皆の視線はもう片方の人物に向けられた。
「ジュイン!」
マスターが彼女に駆け寄ろうとする。しかし――。
「うがっ!?」
彼女は冷酷な様で彼を思い切り蹴飛ばした。マスターは数メートル程吹き飛ばされ、腹を抱える。
「マスター!? 大丈夫か!」
「うぅ……ジュイン! 何をするんだ! 一体どうしたんだ!」
「……」
彼女の目は虚ろで、まるで生気を感じられない。ただぼんやりとマスターを睨んでいる。
「ジュイン! 私だ! マスターだ! 目を覚ましてくれ!」
「……」
彼の声はジュインの大きな耳には届かなかった。
「フッフッフッ……実に面白い様だ」
「貴様……ジュインに何をした!」
「言っただろう? 祝福を与えたのだよ。今や彼女は私の立派な部下」
「マスター、ダメだ! 彼女は洗脳されてる!」
「私の右腕とも共闘させたいが……あいにく忙しくてね。君たちはエクリプスと……とっておきの玩具で始末してあげよう」
すると、奥から大きな機械音を立てて何かが歩いてくる。
「……!? あれは……!」
アンジェラとウォレンが戦慄する。目の前に現れたのは、厚い装甲に覆われた二足型の戦闘用アンドロイドだった。
「あのテロ組織が我々に分けてくれたのだよ。さぁ……精々楽しんでくれ」
そう言うとドゥクスはフードの人物を連れてどこかへ消えていった。ジュインは操られたように、931小隊に襲いかかろうとしている。
「……マスターこんなの……勝てるんですか……?」
アイリスが怯えた様子でマスターに話す。
「AT兵器じゃないとこんなのダメージが入りませんよ!」
ウォレンも混乱した様子で叫ぶ。
「……大丈夫だ、コレがある」
マスターは担いでいたレールガンを降ろし、弾を込めた。
「まずはアンドロイドが先だ。アンジェラ! アイリス! ジュインを頼む!」
「わかった!」
「任せてください!」
「待ってろジュイン……絶対、救ってやる!」
――すべてを賭けた死闘が、今始まった。