第21話「ジュイン・カレッジ救出作戦」
「……遅い」
――インターセプト本部で、アンジェラと931小隊の皆はカレッジとジュインの帰りを待っていた。
2人とも、そろそろ帰還してもおかしくない時刻だが、無線連絡すら入ってこない。何かおかしい。
「2人とも一体何をやっているんだ? もう予定作戦時間はとっくに過ぎてるぞ……」
アンジェラが落ち着かない様子で無線機を確認する。カレッジの無線コードに合わせても、帰ってくるのはノイズだけだった。
「おかしいなぁ……マスターもジュインも任務は早く終わらせる方なんだけど……」
ゲイルが心配そうにアンジェラの無線を気にしていた。
「まさか、捕まったんじゃ……」
「マグノリアさん! そんなはずありませんよ! あの2人ですよ!?」
「だがよアイリス、2人の帰りがこんなに遅くなることなんか今まであったか? マスターは几帳面だ。あいつはいつも、絶対作戦完了時間の前に任務を終えるように考えて行動してる」
「そうですけど……」
マグノリアとアイリスもマスターとジュインのことが気になって仕方がなかった。
「アンジェラ副指揮官、相手はテロ組織と謎のカルト教団……何があってもおかしくないと思います」
「それに……カルペディエムは強力なアンドロイド兵を保有している。もし見つかれば、先の第01遊撃小隊のようにただでは済みません」
工兵のウォレンが呟く。多くの仲間を葬られたカルペディエムに、怯えているような様子であった。
――そこに、ある人物がやってくる。
「931小隊、全員いるか?」
やって来たのはトール少佐だった。しかし彼の様子がおかしい。屈強な彼が妙にソワソワしている。
「トールじゃないか、2人からの連絡は?」
「ダメだ、彼らとは一向に連絡がつかない」
「一応、別の偵察部隊からカルペディエムの武器庫が爆破されたとの報告を受けた。そして、彼らからの最後の通信は、アイン・ソフ・オウルの施設へ侵入するという一報のみだ。」
「……これらから考えると、アイン・ソフ・オウルへの潜入調査の際に、何らかのトラブルに巻き込まれた可能性が極めて高い」
「何だって!?」
「最後に信号を受信したのも教団施設の周辺だ、間違いない」
「だが……これは機密性の高い任務だ。事情の知らない一般部隊に、救出作戦を指示するわけにもいかない……」
トール少佐が、悔しそうな顔で話す。カレッジを思う気持ちは、皆同じなのだろう。
「トール、我々に行かせてくれないか?」
「アンジェラ……!? 本気か? 2人が無事でいるか確信はないんだぞ!?」
「……それでも、大切な仲間をこれ以上失いたくない。それはここにいるみんなが思っているはず」
「頼む……! 行かせてくれ!」
「……君の頼みなら仕方ない。だが、必ず生きて帰ってこい。ミイラ取りがミイラになってもらっちゃ困る」
「もちろんだ、絶対2人を連れて帰る」
アンジェラの覚悟に満ちた瞳に、トールも少し安心していた。
「みんな、2人を救出しに行くぞ! 準備を!」
アンジェラの声にみんなは一斉に装備を整えた。大切な仲間を失うまいという決意が確かにあった。
「アンジェラさん! あなたが頼りです、指揮をお願いします!」
「任せてくれゲイル、絶対マスターとジュインを救い出そう」
「……931小隊、出撃!」
931小隊はジュインとカレッジを救出するべく、教団施設へと向かった。
輸送車に揺れながら、2人の無事をただ祈るしかなかった。
一方、その頃教団地下施設では――。
「う……うぅ……」
「……!?」
ジュインは怪しげな実験台の上で目を覚ました。体を動かそうとするも、手足を拘束されて身動きが取れない。
「なんなのこれ……うっ!ふっ!」
「ダメ……動けない……」
――すると、ジュインの耳が足音に反応して動いた。
「目を覚ましたか、エクリプス」
「っ……!? あなたは……ドゥクス!」
教祖ドゥクスが実験室へやって来た。目元だけを隠す山羊の仮面がなんとも不気味に見える。
「どうかね? よく眠れたかな? 君の堕天使君は牢に捕らえているから安心してくれたまえ。まぁ……無事に済むかはわからないけど」
「早く拘束を解きなさい!」
ジュインは耳を絞り、ドゥクスを冷たい目で睨み付ける。
「……悪い子だ。馬は順応でなければならない……家畜化された馬はひとりでは生きていけないのだよ」
「家畜……!? ふざけるのもいい加減にして! 私を……ダアト人を玩んで一体何がしたいと言うの!」
ジュインは徹底的な反抗心を見せた。その様子を見てドゥクスはため息をついて部下に指示する。
「……彼女に『祝福』を。優れた者は仲間にしなければならない」
部下は怪しげなライトのような物を持ってくると、それをジュインの瞳に照射し始めた。
「っ……!? うがぁぁっ!? うぅ……! なに……これ……いやぁぁぁ!」
怪しい光に視界が歪む、まるで自分の中の感情がすべて溢れ出るような気分だった。必死にもがくも、拘束されて逃げることはできない。
「やめて……ぁ……ぅ……たす……け……かれ……ジ……」
段々、彼女の瞳から光が消えていく。暴れていた体も、段々と力なく抵抗をやめていく。
「……」
――残ったのは、操り人形のように調教された馬だった。
「成功だ、効くかどうか怪しかったが……以外となんとかなるものだな。拘束を解け」
ドゥクスが部下に指示すると、ジュインの拘束が解ける。しかし、彼女は逃げ出そうとしない。
「……立て」
彼が指示すると、ジュインは実験台から降りて彼の前に立つ。虚ろな目からは、生気のようなものは感じられなかった。
「素晴らしい……遂に手に入った! 最強のボディーガードが……」
「これで何があっても、私の計画を邪魔することはできぬだろう」
彼は微かに微笑みながら、我を失ったジュインを見つめていた。
――だが、希望はまだある。終わっていない。
「突入!」
突然、施設内に大きな爆音が響き渡る。
「何だ……? 何が起きた!」
すると部下が慌ててドゥクスの元にやって来た。
「教祖様! 大変です! インターセプトの部隊が我々の施設に突入してきました!」
「何……? まあ、想定内だ。エクリプスを連れて待ち構えるとしよう。それと……あの組織の戦闘アンドロイドも出せ」
「はっ! 仰せのままに……」
「……さて、面白くなりそうだ。見せてもらおうか、インターセプトの実力を」
――果たして、光はどちらへ差し込むだろうか。