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Glory Road(グローリーロード)~再生の楽園~  作者: Curious Sky
第1章「エデン地区編」
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第12話「救う者、救われる者」

 相変わらず重く、暗い灰色の空のエデン地区。


 今日もまた、931小隊に慌ただしく任務が舞い込んできた。


「全員集合!」


 マスターが指令をかける。みんな、真剣な眼差しで指揮官の話を聞いた。


「エデン地区の外れにある廃工場で、一部の市民が何者かによって強制収容されているとの情報が入った」


「そこで、我々はこれからその施設に強行突入する。極めて危険な任務だ、覚悟をしておいてくれ……!」


「全員、出撃準備を!」


 全員が一斉に銃や装備を点検し、装甲輸送車へ乗り込んだ。やはり突入任務だからか、全員不安そうな顔をしている。


「強制収容……一体どんな組織がそんなことをしてるんですかね……」


 ジュインが、耳をソワソワさせてながら呟く。


「ただのゲリラはこんなことしないはずだし……並の武装集団じゃなさそうだよ」


 ゲイルが緊張気味の様子で答える。


「にしてもひどいですよね、ただでさえ生きるのに大変な街なのに強制収容なんて……」


 アイリスが医療品を確認しながら話した。


「……」


「マグ……?どうしたの?」


「……なんでもない」


 マグノリアだけ、やけに暗い顔をしていた。ジュインは不審に思ったが、深追いはせずに見守っていた。


 そうして悪路を装甲車に揺られながら、数十分……931小隊は南エデン地区の外れに到着した。


 皆が装甲車からゾロゾロと出てくる。


「あれが目標の廃工場だ。周辺には警備兵も配置されている、各部隊と連携を取って制圧するぞ」


「こちら931小隊、配置完了。いつでも作戦開始できます」


 マスターが無線を取って各インターセプト部隊と通信する。


「ゲイルのみ後方狙撃で警備兵の排除を、残りは私と共に工場内を制圧してくれ」


「……作戦開始!」


 そうマスターが叫ぶと、突入部隊が一斉に動き出した。ゲイルが遠くから警備兵をひとりずつ倒していく。


「みんな! 外は私に任せて中に!」


「頼んだぞゲイル!」


 マスター、ジュイン、マグノリア、アイリスの4人は混乱に便乗して工場内へ突入した。


 入ってすぐに敵兵士との戦闘が開始した。マグノリアが先陣を切り、残りの3名が後方から火力支援をする。


「オラァッ! 八つ裂きにしてやる!」


 マグノリアがブレードを振るい、敵兵が銃を撃つ前に切り捨てていく。まるで、血に飢えた狼のように。


 騒ぎに気づいた警備兵が、まるで蜂の巣をつついたかの如く至るところから現れ、銃撃してきた。


「誰も……傷つけさせない!」


 ジュインが必死に応戦し、狭い工場内でもお構い無しに素早く動き回りながら射撃していく。


 細かく動くジュインに、敵の照準は定まらなかった。


「当たって……!」


 戦闘慣れしていないアイリスも後方からサブマシンガンで火力支援をする。


アンジェラ指揮官に指導してもらったからか、前よりも正確に射撃できていた。

 

 見事なチームワークに、敵が次々と倒れ、逃げ出す者も現れた。


「クリア、このエリアは制圧したぞ!」


「このまま行きましょう!」


 制圧は順調に進んでいったが、ここで思わぬ障壁に直面した。


 ――ガガガガッ!


「ジュイン! 危ない!」


「うわっ!?」


 通路の曲がり角を曲がろうとしたジュインに、鉛玉が降り注ぐ。マスターが間一髪服を引っ張って事なきを得た。


「PKM機関銃!? なんであんな重火器を持ってるんだ!」


 妙だった、あのような機関銃は流通している銃器の中でも特に高価で、普通のゲリラは装備していない。


 持っていても、弾の消費が激しくてコストパフォーマンスが悪いからだ。


 だから大抵、アサルトライフルが元の分隊支援火器を装備しているのだが……値段なんてお構い無しに、固定機銃を撃ちまくる敵に足止めさせられた。


「くっ……どうすれば……」


「マスター! 射撃が止まる瞬間に手榴弾を投げ込みましょう!」


「いけるのか!? 敵は機関銃以外にも銃を構えているんだぞ!」


「援護射撃をもらえば投げれます!」


「よし……わかった!」


 機関銃が周辺の壁を大きく削り取る様子に、ジュインは足がくすみそうになったが、彼女は弾帯が切れた音を聞き逃さずに飛び出した。


「今っ!」


 マスターの援護射撃を受けながらジュインは壁から一瞬身を乗りだし、手榴弾を機関銃へ投げ込んだ。


「グレネード!」


 ――バーンッ!


 敵が慌てて機関銃から離れると、数秒後に爆音が響き渡った。


「今だ! 押し通せ!」


 その隙を見逃さずに隊員がなだれ込み、なんとか銃座を攻略した。


 すると――無線から味方の声が聞こえる。


「こちらスカウト、工場のほぼ全域を制圧。敵の残当は逃走しています」


「……終わったか」


「こちら931小隊、了解。これより工場内を捜索する」


 激しい戦闘を乗り越え、インターセプトは突入作戦を成功させた。


「アイリスは負傷者を救護してくれ、私とジュイン、マグノリアは市民を捜索する」


「了解です、マスターさん! ここは任せてください!」


「……行こう」


 アイリスと別れ、3人は周辺を探索し始める。

 ボロボロの廃墟には、敵のものと思われる武器や食料が残されていたが、肝心の市民の姿が見えない。


「一体どこに……」


「おい指揮官、あの扉はなんだ?」


「ん?」


 マグノリアがある部屋の扉を指差す。視線の先にはひときわ頑丈そうな鉄のドアが、固く閉ざしていた。


「この先に何かありそうだけど……ダメだ、鍵がかかってびくともしない」


「マスター、離れてください。ちょっと私がやってみます」


「はぁっ!」


 ――バーンッ!


「あ……開いた……!?」


「お前……こんなに蹴りが強いのか……この前の敵兵もこれで……」


 ジュインが全力でバックキックをすると、あれほど頑丈そうだったドアが軽くへこんで外れた。


凄まじい蹴りの威力に思わずマスターとマグノリアは冷や汗をかいた。


 扉の先は細い通路だった。その通路をさらに進むと、大きな扉が現れた。恐る恐る、扉を開けてみる。


 ――先にあったのは、目を背けたくなるほどの惨状だった。


「ッ……!?」


「嘘……なんなの……これ……」


 広がっていたのは、牢屋に囚われている、幼いダアト人の子どもたちだった。


 皆、鎖を腕や足、首などに付けられ、まるでペットのような扱いだった。


 ――いや、奴隷と言った方が的確だろう。


 ほとんどの子の体に傷やアザが大量にあり、衰弱しきっている。中には、既に息絶えている哀れな子も存在した。


暴力を受け、食事もろくに与えられなかったことが垣間見える。

 

 生きている子どもは、牢屋の隅で体を震わせ、突然入ってきた隊員たちを怯える瞳で見つめていた。


「……こんなの、あんまりだ」


「これは……人間がしたことなのか?」


 マスターが、珍しく震えた声でそう呟いた。手のひらが震えるほど、強く拳を握りしめて。


「……やっぱり」


「人間は……信用できないクズばっかりなんだ……!」


 マグノリアが、唇を噛み締めて恨み深くそう囁いた。犬歯が、細かく震えている。


 ジュインは、過去をほじくられたように、体を震わせていた。


「……ダアト人全員を解放しろ、衛生兵もこちらへ来るように」


 マスターが指示をすると、隊員たちが牢屋の鍵を壊してダアト人を救出していった。


「ひっ……!?」


「殺さないで……! お願い……」


 猫の耳と尾が生えた黒髪の少女は、近づくジュインに頭を抱えて恐怖に怯えた。


「大丈夫、私はあなたの味方よ」


「つらかったよね……苦しかったよね……」


 「安心して、もう平気だよ……! 今お姉さんたちが助けてあげるからね!」


「……本当?」


「もちろん、誰もあなたを傷つけたり、痛めつけたりなんてしないから……!」


 ジュインはボロボロの少女を抱えて、衛生兵に治療を頼んだ。


かつて、マスターに救われたように、自分もまたダアト人を救いたい。そんな気持ちでいっぱいだった。


「おい、お前。大丈夫か」


「……」


 マグノリアは、虚ろな目で黙っている翼の生えた男の子を見つけた。


 もう感情が薄れてしまってるのか、恐怖の念すら感じられない。彼女は檻の鍵をブレードで焼き切り、中へ入った。


 「っ……!」


 手錠を外そうと、そっと手を伸ばすと、男の子の体は反射的に縮こまった。


 表情ではわからなくとも、怯えていることがよくわかった。


 「……私はあいつらとは違う、ここから出してやるから怖がるな」


 マグノリアはブレードを振って鎖を断ち切った。


 一瞬、男の子は目を瞑って震えたが、鎖が切れるのを見ると、自由になった手足を不思議そうに見つめていた。


 そうして、隊員たちは次々と囚われていたダアト人たちを救い出した。


 救出されたダアト人は30人以上、ほとんどが10代前半の幼い子どもたちだった。


 「ダアト差別過激派の仕業か……」


 「こんな残酷なことをするなんて……許せない……!」

 

 マスターは、怒りを露わにしていた。マスク代わりのバンダナ越しからも、察せるほどに。


 救出後、後始末を別部隊に任せ、931小隊は本部へ帰還した。


 なんとも後味が悪くて、気分は最悪だった。


 しばらくして、基地に着いたマスターはある違和感に気づいた。マグノリアが見当たらないのだ。


 「どこに行ったんだ……?」


 いつもなら、帰って来てすぐにトレーニングするなんともストイックな子なのだが……トレーニング室には誰もいない。


 食堂にも、休憩室にも、自室にもいない。


 マスターは、マグノリアを探しに基地内を歩き回った。

 

 ――その頃。どこかで、またひとり、心が砕けた音がした。

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