資料「シャードニウムの危険性について」
報告書 ――シャードニウムの危険性について
著 トリニティ医師団団長 フィン・ハトソン
シャードニウムは2060年代にヨーロッパ北部にて突如として発見された未知の金属元素である。
特徴としてエリオン沸石に類似した多孔性結晶構造を持つ重金属ということが知られているが、詳細は発見から数十年経った現在でも不明である。
発掘当時、シャードニウムの原石であるノクチライト(ラテン語で「夜に輝くもの」の意であるノクチルカから)を砕いた採掘者が規則性のある破片が特徴と記したことからシャードニウムと命名された。
このシャードニウムは単体だと脆く、実用性に欠けるが、鉄などの他金属と融解し、シャード合金にすることにより強度や剛性を飛躍的に向上させることができると判明した。
鉄とほとんど変わらない比重だが、タングステンと同等かそれ以上の硬度を持つシャード合金は、戦争により枯渇しかけていたタングステンの代替品として広く使用されるようになった。
徹甲弾に使用すると高貫徹かつ、貫通した後にバラバラに砕け、敵搭乗員に甚大な被害を与えることから各国はこぞって戦車用の装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)の弾芯にシャードニウムを使用した。
さらに比較的軽量なため、戦車や装甲車の増加複合装甲などありとあらゆる軍事装備に使用された。
このようにシャードニウムには魅力的なメリットがあり、軍事以外でも建材や宇宙工学にも使用されたと言われている。
しかし、このシャードニウムの正体は、「悪魔の金属」と呼ばれるほど恐ろしいものであった。
シャードニウムが使用されてからしばらくして、使用者に不可解な症状が現れ始めた。
激しい咳や四肢への激痛、喀血、幻覚などを引き起こしたのち、青く輝くシャードニウム結晶に包まれ、多くの人々が命を落とした。
この謎の病を調査していた医師はシャードニウムの微細な粒子がこの症状を引き起こしていることを発見し、公害病の一つとして認定された。
正式名称を「シャードニウム粒子吸入性症候群」(SIPS)と言い、シャードニウム中毒や青眼病など地域や組織によって呼び方が異なる。
発症原因は主に長期的なシャードニウム粉塵の吸入であり、特に戦場や鉱山にいる者への発症例が多い。
症状は個人差があるが基本的なものとして
初期は咳や体への痛み、そして感染者の目が青白く光る(青眼病の由来)などであり。
中期以降は重篤な肺炎、体外への結晶の露出、さらに末期には消化器官にまで結晶が成長することによる喀血、さらに幻覚(脳にまで結晶が発現することによる障害と思われるが原因不明)などが現れ、治療しない限り致死率は100%という恐るべき病である。
第三次世界大戦後から各地で患者数が急増し、エデン地区内では少なくとも200人以上の感染者が確認されている。
感染者は他者への感染を避けるため、場合によっては地域医療への受け入れを拒否される事例がある。
公害による病気のため、周りからは哀れむ目で見てもらえることが多いが、差別も決して少なくない。
治療法は現時点では対処療法しかなく、完治は現実的ではないが。現在トリニティ医師団内でシャードニウムに対応する特殊なキレート剤と血液ろ過装置を開発中であり、もしこれが開発されれば軽症患者の完治が見込める。
予防策は鉱山やシャードニウム汚染地域へ近付かないこと。防塵マスクを着用し粉塵を吸い込まないようにするなどである。
――筆者 フィン・ハトソン
報告書の隅に、後書きが残されている。
――日記
これまでエデン地区で私は、多くの患者の死を見てきた。これ以上、この恐ろしい病で命を落とす人を増やすわけにはいかない。
アイリスたちインターセプトの隊員も、人々を救おうと奮起している。私も、医師団団長として使命を果たさなくては……
最近、休みもせず治療と研究に打ち込んだせいか、風邪気味になってしまった。だが、もう少しであの試作キレート剤が完成する。これを試験して量産できれば、救える患者が増えるはずだ……
――私は諦めない、人々が心の底から、幸せと思えるまで。