第八話 少年と魔女と飲んだくれ
第一級指名手配犯となった少年と魔女。
追手が来る前に次の街へ急ぐ――
澄み切った綺麗な空気。
見渡す限り草原が広がっている。
体に伝わるは上下に揺れる振動。
少年と魔女は聖第六都市を抜けて荷馬車に乗って草原を渡っていた。
「それにしてもどこを見ても一面草原だな」
荷馬車の縁に肘をつき頭を支えて詰まらなそうに外を見ている少年、ガイ。
「流石に長く乗ってるから飽きてきたようだね」
そんなガイに苦笑している魔女、キース。
「だってもう7日はこの荷馬車に乗って草原を渡っているのに未だに抜けないんだぞ。風景が変わらないと流石にな」
「まぁもう少しの辛抱さ。もうちょっとで、この草原は抜けるはずだ」
「だと良いんだけどな」
ガイは話を切り上げてまた外の景色を眺め始める。
7日、聖第六都市を抜けてから経った日数だ。
ガイとキースは聖第六都市を抜け、追手に捕まる前に近郊の村で荷馬車を捕まえた。
途中の街へ寄ると捕まる可能性があるので、聖国を抜けるまではこのまま荷馬車で駆け抜ける。
しかし、やはり7日も荷馬車に乗っていると街へ寄れないのは頭では分かっていても、代わり映えの無い景色に飽き飽きとしてきて何か新しい刺激を欲するものである。
ガイはもちろん、キースでさえも無意識にそう思っていた。
ふと、キースは少し離れた所から何かを感じた。
鼻につく獣の匂い。死臭だ。それも大量の。
「キース、これって」
「あぁ、獣の死骸が沢山だ。十中八九何かがある」
ガイも気づいてキースへ声をかけた。
「少し止めてくれ!」
キースはそう御者へ叫び、ガイと共に荷馬車から飛び降りる。
匂いの元は近い。気配を消してそこへ近づく。
そこへ近づくと段々と感じれるのは何か別の匂い。
獣の匂いに混じって酒の匂いが漂っている。
ガイが鼻を抑えながら疑問を呈す。
「酒?どうしてこんなところで」
更に近づく、そして見えてくるのは1つの影。
獣?いやこの形、この気配、人だ。
そして、見えてきたのは―――
獣の死骸へ寄りかかり座り込む一人の男だ。
年齢は30代前半位だろう。
背丈は180cm位。筋肉がついており胸板が厚い。
顔には無精髭が生えているが不快感を与える事はない。右手には中身が半分ほどとなった酒瓶を握っている。
そして何よりこの男―――
途轍もなく酒臭い。
酒に酔っているのだろうか意識はあまり無いように見え、というか寝ているのだろう。
こんな環境で寝るなど普通はあり得ないのだが。
「この男がこれを?」
「状況から見たらそうなのだろうが、この男は怪しすぎる。どうしたものか」
ガイとキースが対応に困っていると会話の音で目が覚めたのだろう。
男のまぶたがゆっくりと開く。
「んんぁ、良く寝た。ん?あんたら誰だ?」
「僕達は旅人さ。強い獣の匂いがしてきたから様子を見に来たのだけど、ここで何があったんだい?これは君がしたのか?」
キースは自分達が何者かを名乗りつつ、この状況について男に尋ねる。
「ここで酒飲んでたら襲われたから返り討ちにしたんだ。良い気分だったのに邪魔しやがって」
「ここで酒を?」
こんな草原のど真ん中で酒を飲み始めるなんて頭がおかしいと思っている風にガイが聞き返す。
「あぁ、そうさ」
「結局、君は誰なんだい?」
キースが男へ正体を尋ねる。
すると、男は立ち上がり頭をかきながら言った。
「あー、俺はゾアだ。意外かも知れないが好物は酒だ」
「全然意外じゃねぇよ!」
ガイが反射的にツッコむ。
「名前もそうだけど、何故こんな所で酒を飲んでるような男がこれだけの獣を相手取り倒せるのかと聞いてるいるんだけどな」
「んんーそうだな、あ、やばいもう夕暮れだわ。帰る方法が無い。あんたら旅人だって言ってたよな?一緒に連れて行ってくれないか?」
ゾアはキースの質問をはぐらかしガイ達に連れてって貰えるように尋ねる。
「正直、正体の分からない者を連れて行くのは嫌だが、暗くなってきているしこんな草原の真ん中でおいていくわけにもいかないか」
キースは仕様がなくゾアの同行に許可を出し、荷馬車へ戻り始める。
「まじ助かったわーあんたは名前何ていうんだ?」
「ガイだ。彼女はキース」
「ガイはなんで旅をしてるんだ?」
ゾアがガイへ尋ねる。
ガイは質問に答えるか迷って結局はぐらかすことにした。
「秘密だ。お前の正体と同じ様にな」
「成る程、まぁいいさ」
少し話しながら歩いていると置いてきた荷馬車へつく。
辺りはもう夕暮れで今日はもう進めそうにない。
キースが御者に話をつけていたらしく、ゾアを含めてここで野営をする事にした。
皆で火を囲み夕食を摂る。
ガイはゾアが何処から出したのやらまた酒瓶を開け酒を飲んでいる事に気がついた。
「そんなに酒ばっか飲んでると体に悪いぞ」
「馬鹿野郎!酒は体に良いんだよ!わかってねぇな兄弟」
そう言ってガハハとゾアは笑う。
「兄弟?」
相当酔っているようだ。距離感が半端無い。
「兄弟と姉さんはどんな関係なんだ?姉弟ってわけでもないなさそうだしな」
「うーん、どうなんだろう?」
そう言われるとガイにも適切な言葉が思いつかない。すると、キースがこう答える。
「強いて言えば親子か?」
「はぁ!?まじかよ、姉さんって意外とおばs」
ゾアが急に言葉を止めた。否、止めされられたと言うべきか。
光速の拳がゾアの頬を打ち抜いていた。
キースは拳を納めその手に息を吹きかける。
「強いて言えばと言っただろう。本当に親子なわけじゃない」
「成る程ね」
そうこう話してる間に夜が更けていく―――
少年と魔女の新たな出会い。
聖国を抜ける旅は未だ続く
カクヨムの方の最新話に追いついてしまいました。
ここから先の更新は少し間が空き始めるかもしれません。