第六話 聖者襲撃-1-
少年と魔女は急いで街を出る。
聖者に全てが露呈する前に。
少年、ガイは外へ出る門の列へ並んでいた。
聖者に吸血種だと気づかれる前に逃げなければいけないのだった。
「まぁそんなに焦らないでよ。流石にここでは襲われ無いだろうしね」
魔女、キースはそうガイを安心させようとする。
「そうと言っても怖いもんは怖いだろ?封印されたら、もしかしたら一生死ねないかもしれないんだぞ」
「そしたら僕が必ず助けに行ってあげるさ」
「ありがとうさん」
ガイは半信半疑だ。
キースは頬を膨らませる。
「むぅ〜、その反応、僕が本当に助けに行くか疑ってるでしょ?」
「そりゃそうだよ、封印されたら24時間監視がつくし聖者だって近くにいるかもしれない。それをいくら魔女でも一人で突破出来るわけがないよ」
「そんなに僕が弱く見えるって?」
「そ、そういう事を言ってるわけじゃないけど…」そしてガイはキースには聞こえない(とガイは思っている)小声でこう付け加える。
「君だって女の子なんだし、出来るだけ戦いとか危険な事をさせたくないんだよ」
「////」ガイが幾ら小声で言ったとて、魔女の聴力は伊達ではない。キースはそれを聞き赤面した。
「僕だって君にだけ無理させるわけ…」
「そこのお二人さんもうこの街を離れてしまうのですか?この街は良い所なのですから、ゆっくりしていってくれても良いのですが」
キースの言葉を遮り話しかけてきたのは、先程の聖者だ。
「すみません、名乗り忘れてましたね。私はグロース。聖者、老聖のグロースです。以後お見知り置きを」
そう言って聖者は礼をする。
「!?!?」
一呼吸遅れてガイとキースは反応する。
それ程までにグロースは自然に近づいて来ており、ガイ達に気配を悟らせなかった。
キースは落ち着きを払いグロースに話しかける「君が先程僕の連れが言ってた聖者様か」
「聖者様なんて、私はただの老人ですよ」
そう言ってグロースは謙遜するが、
「ただの老人が聖者になれるわけがないじゃないか、謙遜もすぎると嫌味だよ」魔女に辛辣に言われる。
「そういうことなら謝ります」
「良いんだ良いんだ僕も少し言い過ぎたよ」
少し空気が和らぐ。このまま何も起こらなければ良い、そうガイが思った時。
空気が揺らぐ、空間が裂けるかと思う程の衝撃が周囲に伝播する。
ガイの目の前ではグロースが下から剣を突き出し、それをキースが血剣で抑えつけていた。
「やはり…吸血種でしたか、しかもこの力にその風貌…吸血魔女姫か!!」
グロースはバク転をしながら少し後ろに下がる。
「流石聖者。僕の力でも抑えるのがやっとだなんて、なんて厄介なんだ」
そう言ってキースは手に持ってる血剣を手首で回転させた後それを大振りにふる。
「そこは間合いの外ですよ?何をして、!?」
グロースは体を捻り限界まで体を反ってそれを回避する。
キースの斬撃が飛んだのだ。それは、間合いの外にいるグロースの身体を完全に断つ勢いだった。
もう一度キースが血剣を大振りに振る。
「飛ぶ斬撃…厄介ですね」
そう呟きながら直ぐに冷静になり斬撃を薄皮1枚で躱し、前傾姿勢のまま走り出す。
その男が向かう先はーーーーーー、ガイだ。
「先にこちらを仕留める!」
「ガイッ!!」
「大丈夫だ!俺だってお前を守れるってとこ見せてやるよ」
ガイは剣を抜き、刃の腹を地と垂直に傾け、右足を深く後方に下げ姿勢を低くする。そして、前方に踏み込み全力の突きをする。
「その程度ッ!」グロースはそれを左下から右上に向けて斬り上げガイの剣を振り払って、そのまま剣をまた振り降ろす。
続くは、凄まじい速度の追撃。ガイはそれに反応しそれを防ぐ。激しい攻防戦、光速度の剣戟。
しかし、相手は聖者。次第にガイは押され、顔や腕、胴体に切り傷がついていく。
「うぉぉぉおおおおお!!!!」
ガイは必死に喰らいつく。
しかし、「これで、トドメですよ!」
グロースは剣を薄緑色に発光させ膨大な聖力をそれに込める。吸血種であるガイは掠るだけで動けなくなるだろう。そして、それは水平に振るわれる。
【聖斬】
刹那、
その場は静寂とかす。
耳が痛むほどの無音。
辺りは、
白く白く白く、
ただひたすらに白く染まる。
残るのは振るわれた剣先の軌跡のみ。
(クソがッ!!ここで俺は捕まり終わるのか…)
ガイは何も感じない空間で終わりを悟る。―――――
「ちょっと待ちなさい!!!まだ、僕が居るでしょうが!」
普段の言葉遣いが崩れ、怒気を纏いながら、こちらに寄ってくる者が居た、キースだ。