第三話 少年は死に、魔女は殺す
少年と魔女は森のはずれにいた。
もう少しで森を抜け平原に、そして街に出る。
少年、ガイは疲弊を隠しきれぬ顔で言った。
「待ってくれ。ちょっと休憩しないと辛い」
「もうへばったのかい?僕はまだへっちゃらだぞ」
魔女、キースは疲弊を感じさせぬ顔で言った。
「流石に夜中から歩き始めてもう昼時だぞ。疲れない方が人間じゃないだろ」
「でも君は人間じゃないだろう?」
「まぁそうだけど…」
ガイはまだ不満そうだ。
そこでキースはこう提案する。
「あそこの開けたとこまで行ったら休憩しよう」
そうキースが指をさすのは、森の中で少し木々が無くなっている空間だ。
ガイは走り出す。
早く行って休みたいのだ。
「ふぅ〜疲れた。もうくたくただよ」
そう言ってガイは腰を下ろす。
「全く、走らなくても良いじゃないか」
キースも小走りで追いついてくる。
「すまんすまん」
「もう、君ってやつは」
キースは呆れた顔でガイを見つめる。
ガイはやはりキースの瞳は綺麗だなと違う事を考えていた。
少しばかりキースの瞳を眺めているとその瞳に陰がさす。
「ガイッ避けて!」
キースが焦った声で叫んだ。
そこでガイも気づく。
背後に獣が居るのだと。
素早く右に転がると先程まで居た所は削り取られていた。
その獣は熊のような体格をした獣だった。
威圧感は半端では無く、この森の王と呼べるに相応しい貫禄があった。
この森のはずれにいるのは少し疑問であるが、ガイはすぐにキースに対処出来るかを聞く。
「キース!」
「これ程の獣がいるとはね。僕が魔法を使って倒すけどそれまで30秒程稼いで欲しい!」
ガイは30秒と聞き驚く。
この獣相手に30秒はとても難しいと感じた。
だが、やるしか手段がない。
そこでガイも覚悟を決めた。
「分かった!最悪死んででも食い止める!」
ガイはそう叫ぶなり、獣に向かって速攻する。
獣は右前脚を振り下ろしてくる。
それをガイは左に避け体勢を低くし、より獣に近づこうとする。
「グウォォォォォ」
獣の雄叫びが聞こえる。
その瞬間、ガイの体が動かなくなる。
超音波による金縛りだ。
ガイがそれに気づいた時には体を吹き飛ばされ、意識が飛びかけていた。
「ガイ!!」
「大丈夫ですから、もう少し俺は時間を稼ぎます」
そう声をあげ、起き上がる。
額から血を流し、足取りは定かではない。
獣はガイにトドメを刺そうとし噛みついた。
ガイが最後に見た光景は、下半身だけが血を噴き出し立っていたものだった。
血液魔法、血雨
血が雨のように降りそぞき、射線上にいる敵を打ち貫く。
獣は全身に穴を開け、事切れる。
魔女の勝ちだ。
しかし、少年は死んだ。
「あー死ぬ、てか死んだわ」
と、ガイは煙を上げ声を上げる。
分断された肉体はまた作り直された。
生えてきた下半身を見ながらガイは安堵の声を漏らす。
「キース無事だったか、良かった」
キースは駆け寄りガイに小言を言う。
「君が無事じゃなくてどうするんですか。蘇生したのだから良いから早く僕の血液を飲みなさい」
流石に2度目なのだからガイも恥ずかしがったり、躊躇する事も無くキースの首筋に口をつける。
「あー生き返る」
ガイは気持ちよさそうに声を出し一段落をついた。
「それにしてもこんな強い獣が居るとは思わなかった」
「そうだね、僕が時間かかったせいで君が死んでしまった」
キースはそう落ち込む。
ガイはそんなキースを励ますように言う。
「そんな事無いさ、キースが居なかったら獣を倒せなかった。まぁ、今度はもう少し時間を稼げるように、闘い方を教えてほしいんだ」
キースは少し思案し了解する。
「分かった。君に闘い方を教えよう」
こうして少年は強くなる。自分を、魔女を護れるようになるために。
旅は続く