第二話 魔女と空
魔女は歩く、少年も歩く、地上を目指して。
ただ一つ違っている所があるとすれば、魔女は後ろを向き、少年は前を向いている事だろう。
少年、ガイは前方で、にこやかに微笑みながら後ろ歩きをする魔女に溜息を吐いた。
「ここさ、一応古代遺跡だしそんな適当な歩きで大丈夫なのかよ、俺が死ぬ前に罠に引っかかって死んでもらったら凄く困るんですけど」
魔女、キースは腰に手を当て胸を張り言った。
「僕を誰だと思ってるのかな、吸血魔女姫だよ?こんなとこチョチョイのちょいさ」
そしてキースはもう一歩進む。
するとガコッと石畳が沈む。
行きにガイがはまった罠と同じ物があったのだ。
銃撃魔法により弾丸が飛んでくる。
しかし、キースは動じない。
ガイのように視認出来ていないから慌てないのではなくて、対処出来るから、自身に危害が及ばない事を知っているから慌てないのだ。
キースの周りに光の粒が舞う。
キースの指先から血液で出来た弾丸が発射された。
それは飛んでくる弾丸に当たり全てを撃墜した。
キースは得意気に言う。
「ほらね?」
ガイは素直に驚き賞賛する。
「流石魔女様。」
少年と魔女はついに入り口に辿り着く。
岩で出来た重い扉をガイは必死に押し、凄まじい音と共に扉が動き始める。
光が差し込んで来るかと思いきや、現れたのは鬱蒼と茂る木々だった。
空は木々に覆われ一片の空すら見えない。
加えて今は夜、何も見えないのは仕方が無い事だろう。
「う〜ん、久方振りの地面だと言うのに、こうも気分が沈むような光景だとはね」
キースは少し残念そうな顔をした。
すると、ガイがキースの手を掴んで走り始める。
「どうしたんだい!?」
魔女は理由を尋ねる。
「良いから良いから」
ガイはそれをはぐらかしながら坂道を駆け上がる。
進むたび少しずつ木々が少なくなり、ついには晴れた丘に出た。
ガイは振り向き笑いながら言った。
「ここなら景色が綺麗だろう?キースには久しぶりの地上に落胆して欲しくないんだ」
空気は澄み、空は晴れ、一面に星空が広がっている。
キースはこの光景を生涯一度も忘れる事は無いだろう。
「ありがとうガイ。君はとてもいいやつだな」
そしてキースは小さな声で呟く。
「君のそういう所、凄く好ましいよ」
「ん?なんか言ったか?」
「いいや、なにも」
キースははにかみながらガイにもう一度感謝を伝える。
「本当にありがとう、この光景は一生忘れないよ」
「ああ、どういたしまして」
一段落をつき魔女は少年に今後の動きについて相談する
「さて、ここからどうアビスに向かうかい?ここからだと、まずは聖国を通り抜けなければならないけど」
「でも俺とキースは吸血種だ。それが露呈すればすぐに幽閉だぞ」
キースはそれに頷き、困った顔をした。
「それは僕との契約で存在を誤魔化してなんとかするけど、確率は相当低いけど、それが見破られた時に強行突破出来るかが分からないんだ」
「まぁ取り敢えず行ってみないと始まらないな」
そう言ってガイは立ち上がろうとした。
しかし、立ち上がり終わる寸前にガイはふらつき倒れた。
「大丈夫かい、ガイ」
キースは心配そうにガイの顔を覗く。
「問題無い…、血が足りないだけだ。」
吸血種は復活の際に血液を利用し、血液が足りなくなると貧血を起こし動けなくなってしまう。
キースはそれを聞いて安堵し、そしてその柔らかな首筋をそっと出した。
ガイはそれを見て狼狽える。
「そ、そんな事しなくても自分の血を吸えば、また少しは動けるようになるはずだから」
「良いから飲んで」
キースはガイの口に艶やかな首筋を近づける。
キースの柔らかな銀髪がガイの頬に触れる。
ガイはキースの圧に耐えきれなくなり、ついにキースの首筋に歯を刺した。
「んっ」
キースは声を漏らす。
ガイはそれに少しの興奮を覚えながら、血を吸い続けた。
「ぷはっ、ありがとう。正直助かった」
「大丈夫だよ、僕も吸われてる間気持ちよかったしね」
「からかうなよッ」
ガイは少し照れる。
「よし今度こそ出発しようか」
魔女は立ち上がり言った。
「ああ」
少年も立ち上がり頷いた。
少年と魔女の旅はまだ始まったばかりだ。
吸血種が吸血種の血を飲む。つまり、共喰いをしても体力は回復します。しかし、通常は少量しか回復する事は無く、今回はキースが吸血魔女姫という特異個体であり魔力量が尋常では無かった事で動けるようになる程回復しました。