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記憶を取り戻す物語

話し合いが始まった。相手は元々引きこもりの男だそうだ。中学から不登校になり、ネットの海に溺れた。推していたアイドルが結婚発表ののちに引退したことをきっかけに自分とこの世界を繋いでいたものが全て無くなり自ら死を選んだという。


「俺は来世を信じていたんだ。だから窓から飛び降りた。最期は暗い部屋じゃなくて明るい日の下で死にたかったから。来世では真面目に生きようと、きっと生まれ変われば全て上手くいくって、そう思ってた。でも結局死んだって天国には行けず、来世なんてものもなくて、こうやって見ず知らずの他人と殺しあってる。笑えるよな。」


話をしようと持ちかけたのは私だ。どちらかが死ぬまで部屋から出られず、3時間が経つと壁から染み出す酸で身体を溶かされ2人とも死ぬらしい。どちらが生き残っても悔いが残らないよう話し合おうと提案した。相手の男は乗ってくれた。


「私には記憶が無いんです。気が付いたらここにいて、殺し合いが始まりました。私は元の世界に戻りたい。自分が何者だったか知りたい。だから勝って先に進まなくちゃいけないんです。」


私は自分の境遇を語った。と言っても、語れることは無く、私に分かることは何もわからないということだけだった。



……しばらく話をした。と言っても、私に出来るのは相手の話を聞くことだけ。男は色んな話をした。私には男を否定する経験も知識もなかったのでただ全てを肯定した。


「2時間50分経過〜。あと10分で2人とも死んじゃうよ〜」


アナウンスが聞こえる。ここに来て最初に聞いた声だ。


「俺さ、信じてたって裏切られるだけなら最初から信じない。そうやって生きようとしたんだ。でも出来なかった。そんな生き方辛いだけなんだよ。俺はさ、もう疲れたんだよ。最期にお前を信じてやりたい。お前の夢を信じてやりたい!お前の願い叶うといいな。」


そう言うと男は笑った。疲れきったような、でも少し満ち足りたような顔で。


「話聞いてくれてありがとな。最期に会ったのがお前で良かったよ。」


この時、私は察してしまった。この男は再び自ら死を選ぶのだと。何物でもない私に思いを託して。だから私は最後に男に言った。


「たくさんお話してくれてありがとう!」

私は笑顔を作った。頬を伝うのが涙であるとわかる。つい3時間前に会った男の為に涙を流すのはこれが初めてでは無い。

男は立ち上がると歩き出した。


「明るいところで死にたかった俺が次に死ぬのは真っ暗闇か。皮肉が効いてるな…」


ボソッと呟くと男は一言、じゃあな、と言った。

そして男は底無しの暗闇へと沈んでいった。



「第2試合終了〜!それじゃあ、2時間後にこの場所で、」


感傷に浸る間もなく告げられるアナウンス。多少の苛立ちを覚えながら私は部屋を後にした。

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